ケータイ

櫟井

ケータイ


───これ、なんですがね。


はあ。ケータイですか。


ええ。


これが、どうかしたんですか?


いや、ね。このケータイ、たまになんですけど、電話がかかってくるんです。同じ番号から。


はい。


知らない方から、ということですか。


ええ。───あ、いや、分からないんです。


分からない?


ええ。なにせなんにも話さないものですから。


音がしないんですか?


はい。


イタズラ電話の類でしょうかね。電話番号は変えられました?


はい。


「はい」?変えられたんですか?


ええ、2回ほど変えたんですが、それでも掛かってくるんです。


なるほど、ちょっとおかしな話ですね。その電話番号、見せて頂けますか?


もちろん。ええと、これですね。


はい。お借りしますね。少し、調べてみます。


お願いします。


──────。


──────。


いや、特に何も出てこないですね。大概の業者なんかはリストアップされているんですが。


個人、ということですか?


そこはなんとも。まあ、無言ってことは、恐らくセールスではないでしょうから。或いは、相手のマイクが壊れてて───なんてのも、考えられなくはないですかね。


なるほど。


この番号であれば、固定電話ではないですから、まあケータイから───あ。


どうかしましたか?


あぁ、いや、押し間違えただけです。もう少しでかけるとこでした。


───すみません、掛けて、貰っても良いですか?


はい?


いや、少し、気になりまして。


はぁ。まあ。じゃあ、掛けてみますか。


お願いします。



『───。』 



『───。』



『───。』 



『───。』



『───。』





『───ガチャン。』


繋がりましたね。───もしもし。


『───』


もしもし?


『───』


聞こえませんね。


あ、音量、小さくなってるかも知れないです。


あぁ、じゃあ、スピーカーモードにしてみますか。



もしもし。


「───。」


? 今、……


もしもし?


「───?」


相手には聞こえてるんですかね。


すみません、音が小さくて聞き取れないんですけども。もう少し、音量上げていただいても宜しいですか?


「────────────────────────────────────────────?」


あの。


はい。


聞こえました?


ええ、何を言っているかまではわかりませんけども。なにか雑音みたいな、人の話し声のような。


いえ。違くて。


はい?




音、こっちです。


こっちの、方から聞こえました。

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ケータイ 櫟井 @ichii11

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