第18話 初めての王都
「ここが、王都……!」
城の門を出て正面に、真っ直ぐにどこまでも続く長い道がある。その道はいくつもの道に枝分かれしていて、迷ったら大変なことになってしまいそうだ。
それになにより、人や馬車の数がかなり多い。少しでもぼーっとしているだけで、邪魔だと通行人に睨みつけられてしまう。
それに、みんな、歩くのがすごく早くない……?
田舎に暮らしている人とは歩き方まで違う……なんて思ってしまうのは、小鈴の勘違いだろうか。
「ちょっと、あんまりうろうろしないの」
いきなり美雨に腕を引かれた。
「人が多いってことは、変な人も多いってこと、忘れないようにね。貴女は幼く見えるし、すぐ狙われそうだわ」
「……気をつけます」
幼く見える顔立ちに加えて、田舎者で土地勘もない。美雨の言う通り、ちゃんと気をつけなくては。
「王都のこと、どれくらい知ってるの?」
「えっと、なんというか、全然知らないです」
とにかく栄えている場所、という認識しかない。
美雨も、小鈴になにか知識を期待していたわけではないのだろう。分かったわ、とすぐに頷いた。
「城のすぐ近くは、住宅街よ。官吏や貴族たちの家ね。市場から少し離れているから、静かなの」
「なるほど。確かに、大きいお屋敷が多いですね」
「ちなみに暁東様の実家もこのあたりにあるそうよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「ええ。出世する可能性が高いから、あの人に好かれておいて損はないわよ」
そう言うと、美雨は小鈴の手を握ったまま歩き出した。
美雨さん、私に歩幅、合わせてくれてる。
小鈴に比べ、美雨はかなり背が高い。そのため足も長いのだが、小鈴に合わせてゆっくり歩いてくれている。
私を励まそうとしてくれたっていうのも、やっぱり本当なんだな。
◆
「こっちが西市、こっちが東市よ。王都にはこの二つの市場があるの」
しばらく歩いたところで立ち止まり、美雨が左右の道を指差した。
左に進めば西市、右に進めば東市があるようだ。
「それぞれの違いとかって、あったりするんですか?」
「そうね。どちらもいろいろなお店があるし、どちらでも楽しめると思うけれど」
うーん、と美雨は少しの間頭を抱えた。
「西市の方が、ちょっとだけ高価な物が多いかしら? もちろん、東市にも高いお店はあるし、西市にも安いお店はあるけれど」
「なるほど……だったら、今日は東市に行きたいです。あまりお金があるわけじゃないので」
「そうね、分かったわ」
家を出る時に林杏が持たせてくれたお金と、給料としてもらったお金はある。でも、自由に遊べるほど大量のお金は持っていない。
それに、もしもの時のために、お金はとっておいた方がいいもんね。
「じゃあ、ついてきて。市場は物取りや物乞いもいるから気をつけるのよ」
「はい」
はぐれないように、美雨とくっついて道を進む。市場の中は何区画かに分けられていて、区画ごとに似たような店が集まっているようだった。
野菜や肉などの食料、衣服や髪飾り、酒屋……本当にいろいろな物が売っている。品物が多すぎて、目移りしてしまう。
「なにか欲しい物はあるの、小鈴?」
「えっと、得になにかが欲しいっていうわけじゃないんです」
王都そのものに関心はあるけれど、これといって欲しい物はない。
城に帰ればきちんと食事をもらえるし、眠る場所もある。着る物にだって困っていない。
「そう? 無欲なのね、小鈴って」
「……美雨さんは、欲しい物とかあるんですか?」
「ええ。新しい簪も欲しいし、腰紐も帯も欲しいわ」
あれもいいわね、これも……なんて言いながら、美雨は服飾品を売っている区画に向かった。小鈴も美雨についていく。
いろいろな店を見てまわっていると、ふと、美雨が小鈴の簪を見つめた。
「そういえばそれ、かなりいい簪よね。会った時からちょっと気になっていたの。言い方が悪いかもしれないけど、田舎生まれの庶民が持っているような物じゃないから」
「分かるんですか?」
「ええ。私の実家、それなりに大きな商家なのよ。物の価値は、その辺の人より分かるつもりだわ」
「貰い物なんです、これ」
飛龍様からの、とは言わなかった。薄々気づいているのかもしれないが、美雨も何も言わない。ただ、じっと簪を見つめている。
「ねえ、小鈴。簪を送る意味、知ってる?」
「簪を送る意味……?」
「ええ。いくつかあるけれど。たとえば、貴女を守る、とかね」
飛龍がどんな意味を込めて簪を送ってくれたのかは分からない。もしかしたら、特に意味はないのかもしれない。
でも、この前だって飛龍様は、私のことを助けてくれた。
「あの、美雨さん」
「なにかしら?」
「他にも贈り物によって、なにか意味があったりするんですか?」
「そうね。いろいろあるわよ。もちろん、知らない人も多いから、気にしすぎる必要はないと思うけれど」
「……私、欲しい物が決まりました。大切な人への贈り物です」
小鈴が飛龍にあげられるものなんて限られている。たいしていい品は買えないし、飛龍にとっては無用の物かもしれない。
けれど、小鈴がこの簪を見て飛龍のことを思い出したように、飛龍にも小鈴を思い出してほしい。
それに、贈り物があれば、飛龍様に謝るきっかけにもなる。
飛龍のことを思っての行動だったとはいえ、小鈴のとった行動で飛龍を傷つけてしまった。そのことについては、ちゃんと謝りたい。
「分かったわ。贈り物選び、私が手伝ってあげる」
「ありがとうございます、美雨さん!」
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