第15話 耀太しか頼れないの

 合流場所……ショッピングモール内のカフェにやってきた樹と加賀は、解散前とは明らかに違う空気を持っていた。


 デートは成功、ってことでいいんだよな?


 神楽坂と目を見合わせ、ゆっくりと頷き合う。俺たちは俺たちで普通に楽しんでしまったが、樹たちの距離が縮まったようでなによりだ。


「あれ? 希来里ちゃん、本買ったの?」


 神楽坂が指摘した通り、加賀は本屋の紙袋を持っていた。正直加賀が本屋を好むとは思えないから、きっと樹が連れていったのだろう。


「うん! つっきーにおすすめ教えてって言ったらさあ、参考書と問題集めっちゃ勧められて。話してるうちに、もうすぐテストじゃん!? って気づいたんだよね」

「……あっ」


 神楽坂の顔から血の気が引いていく。どうやら神楽坂にとっても、テストはあまり歓迎できない行事らしい。


「アタシ勉強苦手でさあ、別にそんなに頑張らなくてもいいかなとも思ったんだけど」


 ちら、と加賀が樹を見上げる。


「頑張ったらつっきーがご褒美くれるって言うから、頑張ってみることにした!」


 俺たちに向かって、加賀は満面の笑みでピースサインをしてみせた。あまりにも嬉しそうな笑顔に、なんだか俺まで恥ずかしくなってしまう。


 樹のやつ、上手くやってるんだな。


 加賀だっていくら勉強が苦手と言っても、入試を合格してうちの学校に入っているのだから、壊滅的に勉強ができないわけじゃないだろう。


「希美ちゃんも一緒に頑張ろ!」


 加賀が神楽坂の手をぎゅっと握る。少し戸惑いつつも、神楽坂は嬉しそうに頷いた。


「よかったな、樹」


 神楽坂たちから少し離れ、樹にだけ小声で話しかける。樹は軽く頷いた後、複雑そうな視線を加賀へ向けた。

 ギャルは国の宝だ、なんて語っていた樹とは思えない真剣な顔をしている。


「なあ、耀太」

「なに?」

「……浮気した加賀の元カレのこと、お前は詳しく知ってるのか?」

「いや? 同じ学校の奴としか」

「……そうか」


 気になるのか、と俺が問うよりも先に、樹は加賀のところへ行ってしまった。





「お兄ちゃん、お姉ちゃんと遊んできたんでしょ! 狡い!」


 家に帰った途端、朱莉がそう騒いだ。どうやら神楽坂から今日の話を聞いたらしい。


「私もお姉ちゃんとまた遊びたい! 一緒にみらちぇん見たいねって話もしてるの!」


 ねえ、と朱莉が俺の腕を引っ張る。朱莉の希望はなんでも叶えてやりたいが、さすがにハードルが高い。


 一緒にアニメを見るってことは、家に呼ぶってことだよな。

 いくら朱莉と会うためとはいえ、俺から神楽坂を誘うのはまずいだろう。朱莉が誘ったとしても、俺の家だというだけで問題がある気すらする。


「あーあ、お姉ちゃんが、お兄ちゃんの彼女だったらいいのに」

「えっ?」

「だってそれなら、お姉ちゃんはいっぱい家にきてもいいし、私だってたくさん会えるでしょ?」

「……そりゃあ、そうかもしれないけど」

「昔から、お兄ちゃんの彼女は麗香様みたいな人がいいって思ってたの!」

「無理だって。レベルが違いすぎる」


 たまたま知り合って仲良くなれただけで、俺と神楽坂は全く釣り合っていない。

 平凡な俺があんな美少女と付き合える日なんてこないだろう。


「そう? 私はお兄ちゃん、モテると思うけどなあ」


 言いながら、朱莉が俺の顔を覗き込んできた。

 目が合うと、いつも通りにこっと笑う。


「うん。やっぱりお兄ちゃん、結構格好いいもん。それに優しいし。ね?」


 甘えるように朱莉は俺の腕に抱き着いてきた。いつまでこうして甘えてくれるのかと思うと、少し寂しいような気さえしてくる。


「それに今私が楽しく学校に行けてるのも、お兄ちゃんのおかげだよ」


 照れくさそうに笑うと、お母さーん! と言いながら朱莉はリビングへ戻っていった。今日は休みだから、母親が夕飯を用意してくれる。

 確か、朱莉の好きな唐揚げだと言っていた。


 今から四年くらい前……小学校に入学した頃、朱莉は今よりずっとおとなしかった。そんな朱莉を、俺は毎朝小学校に送ってから中学へ行っていた。

 いつの間にか朱莉にも友達ができて、友達と行くからいい、と言われるようになってしまったけれど。


 毎朝家を早く出ることはなんともなかったが、妹の送り迎えをしている男子中学生なんてなかなかいない。

 中学に入学したばかりの頃は、よくシスコンだと笑われたものだ。


「……夏菜がいなかったら俺も、学校が嫌になってたかもな」


 樹は今と変わらず俺の友達だった。俺を馬鹿にすることはなかったし、一緒に朱莉を送り迎えしたことも何度もある。

 でもあの時、俺を救ってくれたのは夏菜だ。


 ぴこっ、と俺のスマホが音を立てた。


『ねえ、テスト前に勉強教えてくれない? 赤点とったら、部活に参加できなくなるからまずいんだよね』


 夏菜からのメッセージだ。既読をつけると、返事を送るよりも先にまたメッセージが送られてきた。


『お願い! 沙友里は文化祭近いから忙しいし、耀太しか頼れないの』


 続けて、必死な顔で頭を下げる兎のスタンプが送られてきた。

 文化祭は11月上旬でまだ時間はある。しかし、文化部は既に準備で忙しく、テスト期間も部活があるのだ。


 たいして勉強は得意ではないが、できることはしてやりたい。

 夏菜には恩があるのだから。


『分かった。一緒に勉強しよう』


 メッセージを送ってすぐ、お兄ちゃん! と呼ばれ、俺は慌ててリビングへ向かった。





~~~お願い(あとがき)~~~

神楽坂「この作品は現在、カクヨムコン10に参加中です。読者選考中なので、レビュー(☆)やフォローで応援してくれるとすごく嬉しいです」


耀太「神楽坂? 急にどうしたんだ?」


神楽坂「私と先輩の将来のためにも、皆様の応援が必要なんです……!」


耀太「将来ってなんだ? 本当になに言ってるんだ?」


神楽坂「最新話のページを下にスクロールして、『☆で称える』と書いてあるところの+ボタンを3回押して……どうか3つの☆を……! お願いします、皆様!」


耀太「そもそも皆様って誰なんだ? なあ、神楽坂……?」


神楽坂「もしよければその後、私と先輩を応援する文を一文だけでも書いて、レビューコメントを……! 先輩は、私以外の女の人と勉強会とかするみたいですけど」


耀太「な、なんでそれを神楽坂が……」


神楽坂「他の女性も出てきますが、ぜひ私を応援してくださいね、皆様!」


(お読みくださり、本当にありがとうございます。

コンテスト期間のため、面白いと感じてくださった方は応援してくださると幸いです。また、コメントもお待ちしております……!)

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