第13話 先輩、狡いです
「ここです」
神楽坂が案内してくれた店……星空ワークスは、他の店とは空気が違っていた。中に並んでいる服はどれも派手で華やかで、正直普段着には見えない。
「これ……いわゆる、ロリータってやつだよな?」
「はい。ここ、アニメや漫画とのコラボも多くて、みらちぇんとコラボした服も出してるんです」
「確かに、ありそうだな」
みらちぇんにはいろんな衣装が登場する。かなり派手なものも多いから、この店の服とは相性がよさそうだ。
「神楽坂はこういう感じの服が好きなのか?」
今日神楽坂が着ているのはシンプルな服だ。前に偶然ゲーセンで遭遇した時も、似たような服を着ていた気がする。
そんな神楽坂が、フリルやレースがたっぷり施されたこういう服を好んでいるのは意外だ。
でも……。
「きっと、めちゃくちゃ似合うんだろうな」
「えっ?」
なぜか驚いた神楽坂が丸い瞳で俺を見つめた。
「どうかしたか? 神楽坂、こういう服も着るんだろ。派手だから着て行く場所は選ぶかもしれないけど」
「そ、そうじゃなくてその……今、似合うって……い、言いませんでした?」
「言ったけど?」
「私に、ですか!?」
ぐいっ、と神楽坂がいきなり距離を詰めてくる。俺を見つめる瞳がやけに必死だ。
「あ、ああ。ていうか、この状況で他の奴の話なんかしないだろ」
「で、でも! あんなに可愛い服が私なんかに似合うなんて……」
「いや、神楽坂は可愛いんだから、可愛い服も似合うだろ」
「……先輩」
真っ赤になった神楽坂の顔を見て、俺は自分がとんでもないことを口にしたことに気づいた。
「本当に……私なんかに、似合うんですかね」
神楽坂が俯く。その瞬間俺は、神楽坂の肩をがしっと掴んでいた。
「可愛いんだから、ちゃんと自信持て!」
俺の声が大きすぎたのか、周囲がざわついてしまった。神楽坂だってさらに顔を赤くしている。
めちゃくちゃ恥ずかしい。きっと俺の顔も、神楽坂と一緒で真っ赤なんだろうな。
でも、ちゃんと言わなきゃと思った。今だって後悔はしていない。
「……ありがとうございます。先輩は私にもああいう……ふわふわで可愛くて、ピンク色の服も似合うと思いますか?」
神楽坂が指差したのは、店の一番前に飾られているマネキンだった。
白とピンクのギンガムチェックのワンピースで、胸元には大きなリボンがあり、スカート部分はフリルやレースで飾り付けられている。
もしかしたら神楽坂は、性格だけじゃなくて見た目もクールにしなきゃいけない、と思っているのだろうか。
「ああ。絶対似合う」
「……そうですか。先輩は、そう思ってくれるんですか」
口元を手で覆い、そっかぁ……と神楽坂は何度も嬉しそうに呟いた。泣きそうな顔と目が合って、心臓がきゅっと締めつけられる。
可愛い。
出会った時から、神楽坂はずっと可愛い。でもそんな軽い可愛いじゃなくて、俺は今心の底から、神楽坂を可愛いと思った。思ってしまった。
「先輩。私いつか、星空ワークスの服を着て、好きな髪型をして、きらきらのメイクをして……それで、大好きな人とデートするのが夢なんです」
緊張した顔で神楽坂が言ってくれた。
きっと、他の人には伝えたことのない夢なのだろう。
目を閉じて、マネキンが着ている服を着た神楽坂を想像してみる。神楽坂の好きな髪型はどんなものなのだろう。
ツインテールだろうか。それとも巻き髪だろうか。
きっとどんな姿でも、すごく可愛い。だって夢を叶えた神楽坂は、とびきりの笑顔を浮かべているだろうから。
「ねえ先輩。今はまだ買えないけど……私、お金も貯めておくので。そしたら今度は、一緒に服を買いに行ってくれますか?」
身体中の水分が奪い取られてしまったみたいに喉が渇く。
それってどういう意味だ? と聞けるほど俺は度胸がない。
「……ああ」
「本当ですか? 約束しましたからね。ほら、指きりです」
神楽坂が自然な動作で俺の小指を絡めとった。
「ああ、約束だ」
◆
「御坂先輩は、どの色がいいと思います?」
言いながら、神楽坂は俺の前に5本のリップを出してきた。どれも似たようなピンク色で、正直違いなんて分からない。
「えーっと……」
結局外から見ただけで星空ワークスには入らず、神楽坂に連れられてコスメショップにやってきたのだ。
「私今まで、リップはずっと赤ばっかり使ってきたんです」
「……ああ」
「でも今日なら私、ピンク色のリップが買える気がするんです」
神楽坂がすごく幸せそうだから、きっとそれはいい変化なのだろう。
だが俺には、リップの色の違いなんて分からない。
赤がクールで、ピンクが可愛いとかあるのか? ていうか、今神楽坂が手に持ってるやつは全部ピンクなのか? 赤っぽいやつもあるような……。
「ねえ先輩。先輩が選んでください」
「いや……」
どうしたらいいんだ。これ、正解とかあるのか?
だとすれば俺は、ちゃんと神楽坂が欲しい物を選んでやりたい。
「青みピンクもいいですし、コーラルピンクも可愛いですよね。でもやっぱりラメが多いのが……」
駄目だ。神楽坂の言っていることが微塵も分からない。
朱莉のおかげで服のことは少し分かるけれど、メイクなんてさっぱりなのだ。
「……神楽坂が好きなやつが、一番いいんじゃないか?」
「似合いそうなやつ、選んでほしかったんですけど」
「神楽坂には全部似合うだろ。だから俺は、神楽坂がつけて一番笑顔になれるやつがいいと思って……」
さすがにこんな回答ではまずかっただろうか。
でも本当に分からないのだ。悪い、と改めて謝ろうとして、神楽坂の顔が真っ赤になっていることに気づいた。
「神楽坂?」
「……狡いです。それ、本気で言ってるんですよね?」
「え? そうだけど……なんかまずかったか?」
はあ、と神楽坂は盛大に溜息を吐いた。
そして、持っていたリップのうち、一本を選ぶ。
明るいピンク色で、大量のラメが入っているやつだ。
「これ、買ってきます」
笑顔で言うと、神楽坂は駆け足でレジへ向かっていった。
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