第12話 デート
「なあ、おい。俺の格好、変じゃないよな?」
「その質問、今ので5回目だけど」
「仕方ないだろう。気になるんだから」
ああ、と樹が頭を抱えた。俺も緊張しているのだが、樹があまりにも緊張しているせいで落ち着いてきた気がする。
今日はダブルデートの日だ。神楽坂が加賀に声をかけると、あっという間に予定が成立した。
昼ご飯を食べて、その後はショッピングモールをぶらぶらする……という予定だ。映画を見る、というプランも考えたが、別行動のとりやすさを優先した。
今日は休日だから、俺も樹も私服だ。無難な服を選んできたつもりだが、デートに適しているかは分からない。
「安心していいと思う。わざわざ今日のために買った服なんだろ?」
「……ああ。しかも、マネキンが着ているのをそのまま買った。もしダサいと言われても、俺のセンスじゃなく店員のセンスだ」
着こなしの差じゃないか、とは言わない。それに実際、今日の服は樹によく似合っている。シンプルな薄紫のシャツに黒いパンツ。落ち着いた服装で、大人っぽい雰囲気の樹にはぴったりだ。
待ち合わせ時間まであと10分。そろそろ神楽坂たちもやってくるだろう。
◆
「お待たせしました!」
どこか他の場所で待ち合わせていたようで、神楽坂と加賀は一緒にやってきた。当然ながら、二人とも私服姿である。
白いブラウスに黒いスカートの神楽坂と、ミニ丈のシャツにスリットの入った赤いスカートの加賀。
どちらも制服姿の時とは印象が違う。
「すいません、お待たせしてしまって」
「ううん。まだ時間あるし」
ちら、と樹の様子を観察する。樹の視線は真っ直ぐに加賀に……わずかに見える加賀の腹部に注がれていた。
おい、と小声で咎め、樹の背中を軽く叩く。気になる気持ちは分かるが、凝視するのはデリカシーに欠ける。
「あっ、御坂先輩」
俺が樹と喋っていると、いきなり神楽坂に手を握られた。
「ダブルデートなんですから、先輩は私の隣を歩いてください」
「……この手は?」
「デートなんですから、手くらい繋ぎましょう」
そう言うと、神楽坂は白い頬を赤く染めた。そして急いで俺の耳元に口を寄せ、小さな声で囁く。
「私たちがデートっぽい雰囲気を出さないと、希来里ちゃんたちもやりにくいじゃないですか……!」
なるほど。確かにその通りだ。
それにしても友達のためにこんなことまでやるなんて、神楽坂は優しいな。
◆
「じゃあ、この後……どうします?」
昼食後、そう言い出したのは神楽坂だ。もちろん、打ち合わせ通りである。
「私ちょっと見たいお店とかあって……御坂先輩さえよければ、一緒にどうかなって思ってるんですけど」
「俺でよければ付き合うよ」
二人で目を合わせた後、ゆっくりと視線を樹たちに向ける。四人で行動しようと言われてしまったら、それを断る方法は思いつかない。
しかし、それは杞憂だった。
「了解。じゃあアタシはつっきーと二人でちょっとぶらぶらしようかな。後でまた合流して、甘い物でも食べよ?」
ね? と加賀が神楽坂を見つめる。ひょっとしたら神楽坂は、事前に加賀に根回しをしていたのかもしれない。
「……耀太」
樹が困ったような顔で俺を見る。まさか加賀と二人きりになるとは想像もしていなかったのだろう。
「また後でな、樹」
樹はなにか言いたそうな目で俺を見たが、結局何も言わなかった。
◆
「……どうしましょう、御坂先輩」
樹たちと別れると、神楽坂は困惑した表情で俺を見つめた。
あくまでも樹と加賀を二人きりにするのが目的だったから、特にやることがないのだ。
「えっとその、一応みらちぇんのカードは持ってきてるんですけど」
神楽坂が鞄から公式カードケースを取り出した。妹が持っているものと同じデザインだ。
「ゲームセンターでも行くか?」
「で、でもあの二人、ゲームセンターにきたりしませんかね?」
「……なくはない、かもしれないな」
加賀は分からないが、樹は結構ゲームセンターで遊ぶのも好きだ。だとしても加賀を誘うとは思わないが、油断して遭遇してしまうのもまずい。
というか神楽坂、加賀にもみらちぇん好きは隠してるんだな。かなり仲がよさそうなのに。
「じゃあ、普通にショッピングでもするか? 神楽坂、なんか気になる店とかある?」
「いや、特には……あっ」
「お。なにかあったか?」
「そういえばここ、星空ワークスってお店が入ってたなって……あの、お洋服のお店なんですけど」
「行ってみるか? 俺、服のことなんて分かんないけど」
「い、いいんですか!?」
神楽坂は瞳を輝かせて俺を見つめた。よほどその店に行きたかったらしい。
「ああ」
「ありがとうございます。その、えっと……中に入らなくても、外から眺めるだけでいいので」
「普通に入ればいいのに。なにかあるのか?」
「……えっと……行けば、なんとなく分かると思います」
神楽坂はそう言うと、俺の手を握ったまま歩き出した。
もう樹たちはいないのに、それでも神楽坂は俺の手を握っている。
これじゃ、普通にデートだな。
彼女なんていたことないから、女の子とデートするのは初めてだ。
それを意識した瞬間、俺の鼓動はいつもより速くなってしまった。
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