第2話 学校1の美少女

「ね? いいでしょ!? フレンドカード交換しよ!?」


 すごい勢いで、朱莉が神楽坂の手をぎゅっと握った。

 フレンドカードというのはみらちぇんで使用できるカードの一種だ。プレイする時に他人のフレンドカードをスキャンすると、お互いにフレンドポイントがたまる。

 ポイントがたまると限定カードを購入できたり、リズムゲーム時のポイントが高くなる……という仕組みだ。


「……あの、今は無理で……」


 神楽坂が言うと、朱莉は分かりやすく落ち込んでしまった。


「朱莉、あんまり無茶言うなよ。……ごめんな神楽坂、うちの妹が」

「ち、違います! その、今は無理ってだけでその……今からフレンドカード作るので、待っててくれませんか!?」


 慌てたのか、ずいっ、と神楽坂が俺に顔を近づけた。いきなりのことに思わず一歩後ろへ下がる。


 神楽坂、マジで睫毛長いな。


「わ、私みらちぇん友達っていなくて、だからフレンドカード作ったことなくて、でもその、ずっとフレンドカード交換してみたいなって思ってて……!」


 神楽坂が興奮気味にまくしたてる。

 どうやら神楽坂にとって、妹の誘いはかなり嬉しかったらしい。


 ……神楽坂の家がどの辺かは知らないけど、このゲーセンは学校からは離れている。わざわざそんなところにくるってことは、知り合いに見られたくないからか?


 実のところ、俺がそうなのだ。いくら妹の付き添いとはいえ、女児向けゲームのコーナーにいるところを学校の連中に見られたくはない。

 神楽坂も、俺と同じなんだろうか。


「お姉ちゃん、私とフレンドカード交換してくれるの?」


 朱莉が期待に満ちた瞳で神楽坂を見つめる。


「こ、こちらこそ、お願いします!」





 作ったばかりのフレンドカードを朱莉と交換した神楽坂は、すごく嬉しそうだ。

 朱莉のフレンドカードを見て幸せそうに笑っている。


「初めてのみらちぇん友達……!」


 呟くと、神楽坂は何度も朱莉に向かって頭を下げた。女子高生が女子小学生に頭を下げている光景は、傍から見ると奇妙だ。


「本当にありがとうございます……!」

「ちょっと! そんなに頭下げないで。私がお姉ちゃんと交換したかったんだし!」


 ね? と朱莉が神楽坂の顔を笑顔で覗き込む。うっ、と小さく呻いて、神楽坂が心臓を服の上から押さえた。


 分かる。分かるぞ神楽坂。朱莉の笑顔は心臓に悪いよな……可愛すぎて。


「……天使?」


 俺の呟きじゃない。神楽坂の呟きである。


「お姉ちゃん、お兄ちゃんみたいなこと言ってる!」


 朱莉はげらげらと笑った。そして、また神楽坂の顔をじっと見つめる。


「お姉ちゃんこそ、すっごく美人。お姉ちゃん、みらちぇんの麗香れいか様に似てるよね!? 私、麗香様推しなの!」


 言われてみれば、確かに神楽坂は麗香様に似ている。

 麗香様はみらちぇんに出てくる主要キャラクターの1人で、才色兼備の生徒会長だ。最初は主人公たちのアイドル活動を反対してくるが、10話くらいで仲間になる。


「……実は私、麗香様に憧れて髪を伸ばし始めたの」

「えー!? そうなの!? 超似合ってるよ!」


 可愛い綺麗、天才……と朱莉が神楽坂を褒めちぎる。単純だが真っ直ぐな褒め言葉に、どんどん神楽坂の顔が赤くなっていく。


「そうだ。お姉ちゃんも一緒にアイス食べにいかない?」

「えっ?」

「だめ? 私、お姉ちゃんともっと話したいな。ねっ、お兄ちゃん、いいでしょ?」

「……俺はいいけど」


 ちら、と神楽坂を見る。目が合うと、神楽坂はものすごい勢いで首を縦に振った。


「ぜ、ぜひご一緒したいです……!」





 ゲーセンを出て、俺たちはフードコートに入っているアイスクリーム屋にやってきた。みらちぇんで遊んだ後にアイス、というのは俺と朱莉の定番コースだが、今日はそこに神楽坂もいる。


 俺以上に緊張している神楽坂のおかげでなんとか自然に振る舞えてはいるものの、やはり落ち着かない。


「神楽坂はどれにする?」


 メニューを渡しながら尋ねると、ストリベリーマリアージュで、と即答された。

 レジで3人分のアイスを購入し、空いている席に座る。その瞬間、神楽坂が慌てて鞄から財布を取り出した。


「あ、あの、アイスのお金……!」

「いいって、別に。妹に付き合ってくれたお礼」

「つ、付き合ったっていうか、私も朱莉ちゃんと話したかっただけですから……!」

「じゃあ、先輩の顔を立てるって意味で奢らせてくれ。いいだろ?」

「……ありがとうございます」


 微笑んだ神楽坂が幸せそうな顔でアイスを口に運んだ。


 アイス、好きなんだな。


 朱莉が話しかけ、それに神楽坂が答える。会話を重ねるうちに、神楽坂のぎこちなさもどんどん薄れていった。


 なんかこうしてると、普通の女の子、って感じがするな。

 まあ実際、普通の女の子なんだろうけど。





「さすがに帰らないと」


 俺がそう言うまで、二人は楽しそうに2時間以上喋っていた。


「わ、長々とすいません」

「いや、こっちこそありがとうな」


 じゃあ……と手を振って別れようとした瞬間、あの! と神楽坂が大声を出した。


「よかったら、連絡先交換してもらえませんか……?」


 神楽坂の眼差しは真っ直ぐ朱莉に向けられている。

 もちろん朱莉も頷いてスマホを取り出した。


 これで終わり。そう思っていたのだが。


「それでその、よかったら先輩も……」

「え? 俺?」

「はい。だめですか?」


 だめなわけない。言われるがまま、俺もスマホを取り出して連絡先を交換した。


 こうして俺は、学校1の美少女の連絡先をゲットしたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る