たまたま学校一の年下美少女に懐かれた俺が、いつの間にか3人の美少女からデートに誘われるようになった話
八星 こはく
第1話 ゲーセンにて、美少女と
「お願いお兄ちゃん! もう1回! あと1回だけ!」
ゲームセンター中に響き渡るほどの大声で叫んだのは
「スカートさえ出れば、トロピカルパイナップルコーデがコンプリートなの! ね? お願い!」
「……そうは言ってもなぁ」
朱莉がハマっているのは女児向けのアーケードゲームだ。『天下無双☆みらくるちぇんじ』というアニメと連動したゲームである。
1プレイ200円で、1回遊ぶごとにコーデカードが排出される。そのカードをゲーム機に差し込むことで、キャラクターに好きな服装をさせられるのだ。
「お願い、お兄ちゃん」
顎の下で両手を組み、朱莉はじっと俺を見つめた。くりっとした丸い目が潤んでいて、つい頷いてやりたくなる。
兄の贔屓目を抜きにしても朱莉は美少女だ。そして兄の贔屓目ありで見たら、世界一の美少女である。
「トロピカルパイナップルコーデ、今日までしか手に入らないの。お願い!」
このゲーム……通常『みらちぇん』は、女児向けのくせして結構あざとい商法をとってくる。2週間ごとに期間限定コーデがあるせいで、コンプリートするためにはかなりの回数プレイしなければならない。
「……あと1回やっても、欲しいカードが出るとは限らないぞ」
「分かってる! でも、あと1回だけでいいから!」
「あと1回やったら、ちゃんと帰って宿題するか?」
「する。いっぱいやる。算数もやるから!」
「分かった。あと1回だけな」
母親からもらった今日の軍資金は尽きているけれど、俺の小遣いはまだかなり残っている。200円くらいならどうってことはない。
母さんに知られたら、甘やかしすぎ、って怒られるだろうけどなあ。
分かっていても、6歳下の妹は可愛い。
母さんはシングルマザーで、管理職として忙しく働いている。おかげで金銭的には苦労していないけれど、妹の面倒を見る機会は多い。
今日だって、仕事で遊びに行けない母さんの代わりに、隣町のゲームセンターまで朱莉を連れてきてやったのだ。
「ほら」
200円を渡すと、ありがとう! と朱莉が満面の笑みを浮かべた。
◆
「なっ、なんでまたトップスが出ちゃうの……!」
排出されたカードを手にとり、朱莉は泣きそうな声で言った。レアなカードが排出される演出に喜んでいた分、落ち込んでしまうのだろう。
まあでも、確率的に考えれば、持ってるやつが出る可能性の方が高いんだよな。
「……お兄ちゃん」
潤んだ瞳で朱莉がまた俺を見つめてきた。
「さすがにもうだめ」
「……うぅ……スカートさえあれば、せっかくフルコーデ揃うのに」
あと1回だけだからな。
そう言ってしまいたいのを必死に堪える。朱莉のためにも、甘やかしすぎるのはよくない。
「今日はもうおしまいな。ほら、一緒にアイスでも食べて帰ろう」
「……うん」
もう少しごねるかと思ったが、朱莉はちゃんと頷いてくれた。そんな態度を見ると余計にあと1回やらせてあげたくなってしまう。
俺の決心が鈍らないうちに、さっさとゲーセンを出ないと。
そう思った俺が朱莉の手を握った瞬間、あの、と背後から声をかけられた。
「よかったらトロピカルパイナップルコーデのスカートとトップス、交換します? 私、スカートだぶっちゃってて」
言いながら1枚のカードを差し出してきたのは、とんでもない美少女だった。
腰まで伸びた艶やかな黒髪、凛とした美しさを持つ切れ長の瞳。そして、処女雪のように白い肌とすらりと伸びた手足。
こんな美少女、一目見たら忘れられない。
そして俺は、この美少女を知っている。
「
つい名前を口にしてしまった瞬間、美少女は両手で口を覆った。本人です、と言っているのと同じだ。
神楽坂希美。俺が通う三ツ森高校に今年入学した美少女だ。入学式の日から、とんでもない美少女が入学してきたと噂になっていた。
俺は廊下ですれ違ったことがあるだけだが、それでも顔をはっきりと覚えている。
「な、なんで私の名前を……」
ぷるぷると小刻みに震えている神楽坂の頬は赤く染まっている。無表情なクール美少女、と評される学校での彼女とは大違いだ。
「あ、えっと、同じ高校だから? 知らないだろうけど、俺、2年の
よく見れば、神楽坂の手にはみらちぇん公式のカードケースがある。先程はカードがだぶっていたと言っていたし、神楽坂がみらちぇんで遊んでいるのは間違いないだろう。
「そ、そんな……」
神楽坂が呆然とした表情で呟く。そんな気まずい空気を破ったのは、可愛い俺の妹である。
「お姉ちゃん、カード交換してくれるのっ!?」
きらきらと瞳を輝かせ、朱莉は神楽坂を見つめた。
すると神楽坂がゆっくりと頷く。
「……うん」
「ありがとう! すっごく嬉しい。それにお姉ちゃん、お兄ちゃんの知り合いなの?」
「知り合いっていうか……」
困ったような顔で神楽坂が俺を見つめてくる。
年下が困っていたら放っておけないのは、俺に染みついたお兄ちゃん根性なのだろうか。
「学校が一緒なだけだ。朱莉、よかったな」
これ以上俺がここにいても、神楽坂も困るだろう。そう思って立ち去ろうとしたのだが、手を引っ張っても朱莉が動かない。
「……朱莉?」
名前を呼んでも、朱莉は真っ直ぐに神楽坂を見つめたままだ。
「お姉ちゃん、私とフレンドになってよ!」
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