第7話 青春 ―よくわからないけど、きっと素敵な色

 僕――南野とうじは、五人の話を聞き終わりました。

 ミステリアスな紫色、田部しきさんの話。

 燃え上がる炎の赤色、林こういちさんの話。

 ポップで楽しい橙色、夏井みかんさんの話。

 光と警告だった黄色、鍵野きいさんの話。

 仲間と共に進む緑色、安東しんさんの話。

 五人の春の体験談は、とても興味深く感心できるものでした。しかしそれと同時に、自分自身のちっぽけさも感じさせます。

「青い春って結局なんなのか、気になりますね」

「南野の解答が楽しみだ」

「ここに集まった同志、全員が知りたいことでございます!」

「まー、結局どう転んでも納得する気でいるけどねー」

「さて、本日の主役、南野くん。青についてお願いします」

 そんな虚無感とは対照的に、ほかの参加者たちは僕の発言に期待しているようです。その声に背中を押され、半ば強制的に口を開きます。

「皆さん、五色の春の話、ありがとうございました。ここからは僕が出す答えを、聞いてもらえたら幸いです」

 正直言って頭の中は空っぽ、何も話すことが思い浮かびません。僕にできるのは、浮かび上がってくる心の叫びを一つ一つ口に出していくことだけです。

「皆さんの体験は、多くの人々が思う『青春』そのものではないでしょうか。謎を追い、強さを求め、今を楽しみ、時に嫉妬しながらも、仲間と協調する。青とは、植物の芽を現した色とのことだそうです。夏・秋・冬と今後も伸び続ける力を持っている、そのエネルギーこそがみずみずしい青色なんだとか」

 気が付けば外では雨が降っているようです。その音は僕の怒りをさらに燃え上がらせる、油のようでした。

「青春はとても素敵なことです。エネルギッシュに取り組むその姿は、尊敬に値します。ですが、そんなものが無い我々の気持ちも考えてください。僕は気が付けば高校を卒業し、今年で大学生になりました。何もなかった真っ白な三年間、それを取り戻そうと必死なんです。いや、取り戻すことなんて出来ないんでしょうね、本当はわかっていますよ」

 もう、気が付けば無我夢中になっていました。

「せめて皆さんは、僕の代わりに青春を存分に謳歌してください。そしてその経験を自慢げに話すのではなく、世の中に役立ててください」

 正直言って、もうこの手の話を聞くのは苦痛でしかなくなっている。

 青春自体は悪くないんだから、せめても僕を傷つけないでほしい。その青春は、きっと僕以外の誰かの役に立つのだから。

「皆さんの経験は立派な青春です。それを誇りに思ってください、これで僕からの話は終わりとさせてもらいます」

 青春を経験した人の謙遜はイライラする。でも、世の中の力になる、素敵な経験であることも確か。僕にさえ関わらなかったら、素敵な話で終わるから、どうか放っておいてほしい。それが一人の人間として思える、最善の策なんです。

「ちょっと後味が悪くなってしまいましたが、後片付けをして解散にしましょう。ありがとうございました、そしてごめんなさい」

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