第6話 緑春 ―調和のとれた、優しい色
やあ、次はボクの番だね。
ボクはね、部活でドラマを作っているんだ。別に演劇部ってわけじゃないよ。入っているのは放送部、校内放送用のラジオドラマ番組を制作するんだ。ボクの高校の放送部は規模が大きくてね、曜日ごとに違う番組を毎日放送しているんだ。その中でも、物語を紡ぐことに興味があったんだよ。
入学と同時に放送部に入部したボクは、さっそくラジオドラマ班に入った。初めての作業は台本を印刷してホッチキスで止めることだったのを覚えているよ。台本には、先輩たちの綴った物語が書いてあるんだ、そりゃ台本だからね。正直に言ってね、よくわからなかった。駄作だと思ったんだよ。
だけどボクは我慢して、その後も指示に従って作品の制作に携わったんだ。調和を乱すのはよくないからね。録音、編集と段階を踏んでいくうちに、駄作だと思ってた物語は激変した。先輩の解説を聞いたっていうのもあるかもしれないけど、演技やエフェクト、BGMで平凡な物語も凹凸のあるダイナミックなドラマになったんだよ。
ボクは、感激したよ。こんな台本、書いてみたいなって思った。音だけで語るからこその演出やギミック、それらを盛り込んだ台本を勢いで書き始めて提出したら、すぐに採用されたんだ。
台本ができてから次にやることは知っているかい? 録音じゃないよ、まずは全員で台本の書き直しをするんだ。時には登場人物が減ったり、エピソード一個が丸々カットされたりなんてこともよくあるよ。正直言ってね、最初に書いたボクからしたら苦痛以外の何物でもない。努力して紡いだ物語がダメだしされ、消えていくんだから。
それでもね、ほかの部員たちは丁寧に説明してくれる。シーンの必然性や登場人物のキャラクター性を、むしろボクよりも丁寧に考えてくれるんだ。こうして何人もの手でブラッシュアップされて、ようやく台本が完成する。
そこからは皆も知っている通り、録音、編集の作業へと進んでいく。特に録音は他の班とも合同でやるから、いろんな人の力が集まるんだ。そして編集して、最後に顧問のチェックを受けて、公開へと旅立つ。
思えば最初に書いた台本から、大きく変わったよ。確かに悲しい部分もあるけれど、格段にいい作品になった、そう思えるよ。だって色んな人の手が加わり、思いが加わり、個性が加わって大きくなるんだもん、当然だよね。
ボクはね、仲間の力を侮っていた。でもそれは違ったんだ。仲間は多ければ多いほどいい、どんどんと大きくなっていく花をみんなで育てていく。それこそがボクの春だったってわけさ。
仲間と花を育てる緑の春の話、どうだった?
これで全員話し終わったね。青春とはなんなのか、主催者の南野くんがどんな答えを出すのか、楽しみにしているよ。
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