第24話「山賊の襲来」



二日目、王都から離れたこともあり、一日目より大分道が悪くなった。


馬車のガタガタという振動から守るように、兄様が僕の腰に手を回し、ぎゅっと抱きしめてくれた。


兄様からシトラスミントの爽やかな香りがする。


僕の匂いはどんなだろう? 


以前兄様は、僕はフローラルな香りがするっていってた。


今日も僕の体から、そんな香りがしてたらいいなぁ。


昨日はお風呂に入らずに、兄様に体を清潔に保つ魔法をかけてもらって休んだ。


お風呂とかトイレは、刺客に狙われやすくて危ないんだって。


兄様にお風呂はシュタイン侯爵領に着くまで、我慢しなさいって言われちゃった。


侯爵領の屋敷に着いたら、ゆっくり湯船に浸かって、旅の疲れを癒やしたいな。


兄様は潔癖症らしく、ベッドや部屋の家具や、提供された食器に清潔に保つ魔法をかけていた。


「エアネストの高貴な血を、ダニやノミが吸うなど我慢ならない!」


と言っていたので、兄様は虫が苦手なのかもしれない。


馬車がガタガタと揺れるから、昨日のようにキスはできない。


昨日兄様とキスしてる間僕は、これは兄様にとって人工呼吸と同じ、人工呼吸と同じ、人工呼吸と同じ……と心の中で唱えながら耐えていた。


そうじゃないと……心臓が爆発しそうで……。


不意に兄様の指が僕の唇に触れ、少ししてから離れていった。


彼は僕の唇を撫でた指を、自身の唇に当てた。


「今日は馬車の揺れが酷いからこれで我慢」


兄様のそんな仕草も妖艶で……思わず見惚れてしまう。


……その時、馬車がぐらりと大きく揺れた。


そして馬車は大きく傾いたまま停車した。


外で何かあったのかな?


「ヴォルフリック様、エアネスト様、大変です!」


ハンクがいつになく落ち着きのない声で叫んだ。


「何事だ?」


ヴォルフリック兄様がハンクに尋ねる。


「山賊です! 二十人はいます!

 やつら道に穴を掘り、馬車を動けなくしてから、襲撃しているようです!!」


ハンクの話を聞き、ヴォルフリック兄様がバスタードソードを手にした。


僕も傍にあったロングソードを手に取った。


山賊の襲撃!?


アデリーノはなるべく地味な馬車を用意したと言っていたけど、それでもやはり地方では目立つようだ。


僕の足元には貴重品の入った鞄がある。


山賊にお金を全部あげれば助かるかな?


いやそれは駄目だ!


エアネストはクリスマスや誕生日に家族や親戚からもらった宝石や金貨などを、宝石箱に入れて保管していた。


彼は第三王子で、欲しいものは国王や王妃が買ってくれた。


だから彼はお金の使い道がなかったのだ。


僕はそれらの宝石や金貨を、鞄に詰めてお城から持ち出した。


このお金はシュタイン侯爵領の復興の為、増税に苦しむ民の為に遣うと決めている。


そんな大事なお金を、山賊に渡すわけにはいかない。


なら選択肢は一つ。


山賊と戦うしかない。


だけど、ヴォルフリック兄様とハンクを危険な目に合わせるわけにはいかない。


「ヴォルフリック兄様、僕がおとりになります! 

 兄様はハンクと共にこの貴重品の入った鞄を持って逃げて下さい!」


僕は兄様とハンクを侯爵領行きに巻き込んでしまった。


彼らのことは僕が守らなければならない。


光魔法が使えない今の僕でも、囮くらいなれるはずだ。


「馬鹿を言うな! 

 そなたは馬車の中にいろ! 

 私が山賊を片付ける!」


「兄様、一人では危険です! 

 僕も一緒に戦います!」


僕も一応王族として剣術の稽古は受けている。


兄様のようにバスタードソードは扱えないけど、アデリーノからもらったロングソードがある。


「エアネスト、そなたがいたのでは足手まといだ。

 だからそなたは馬車の中にいろ」


兄様にはっきりと足手まといだと言われてしまった。


確かに多数の山賊相手に、実践経験のない僕は頼りにならないかもしれない。


光魔法が使えない僕は兄様を守るどころか、一緒に戦うことすらできない……。


僕は……足手まといでしかないのか。


「すまないエアネスト。

 そなたを危険な目に合わせなくないのだ。

 そなたのことを守らせてくれ」


へしょげている僕の頭を、兄様がやさしい手付きで撫でてくれた。


「分かりました、僕は馬車の中にいます。

 助けが必要になったらいつでも呼んで下さい」


僕は兄様に言われた通り馬車の中で待つことにした。


「エアネスト、私が外に出たら百数えろ。

 それまでに終わらせる。

 そなたは百数え終える間、目を閉じ、耳を塞いでいろ。

 私が扉を開けるまで、外に出てきてはならぬぞ。

 約束できるな?」


「はい、兄様」


「良い子だ」


「ご武運をお祈りしております」


兄様は馬車から飛び出していった。


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