第20話「シュタイン領への旅立ち」
――エアネスト視点――
国王との謁見から二日後の早朝。
僕とヴォルフリック兄様はいくつかの荷物を持って城を出た。
庭の馬車乗り場まで見送りに来たのは執筆のアデリーノのみ。
実は僕の部屋付きのメイドのエリザが、僕がシュタイン侯爵領に行くことを知り、見送りしたいと言ってくれたんだけど。
王妃に疎まれている僕の見送りをして、彼女の出世に響くと困るので、僕が見送りを断ったのだ。
執事のアデリーノは、僕と兄様がシュタイン侯爵領に行くと知り、とても悲しんでくれた。
彼は僕達の荷造りを手伝ってくれた。
アデリーノは優秀で、あっという間に荷造りを終えた。
彼は他にも馬車や御者の手配をしてくれた。
本当に優秀な執事だと思う。
彼がいなければ、僕は今日城を立つことができなかった。
彼には感謝してもしきれない。
アデリーノが用意してくれた馬車は、二頭立ての簡素な作りだった
僕が王子時代に乗っていた四頭立ての馬車に比べると質素というだけで、この馬車も十分立派だ。
「盗賊などに目をつけられないよう見かけは華美な装飾の少ない馬車を選びました。
見かけよりも頑丈に作られているので、長旅でも快適に過ごせるはずです。
馬も足の速さよりも、持久力のあるものを選びました」
アデリーノが説明してくれた。
彼は色々と考えてこの馬車を選んでくれたみたいだ。
とても頼りになる。
「御者をご紹介いたします。
彼の名はハンク。
わたくしの古くからの知り合いでございます。
多少年を重ねておりますが、その腕前は確かでございます。
王国内の地理にも精通しておりますので、シュタイン侯爵領まで確実にお二人をお連れいたしますでしょう」
「ハンクと申します。
お二人をシュタイン侯爵領まで安全にお連れいたします」
ハンクと呼ばれた初老の男は、帽子を取って丁寧に挨拶をした。
「多少歳を取りましたが、その分経験と知識は誰よりもあるつもりです。 体力だってまだまだ若いもんには負けません」
そう言って彼はにっこりと笑った。
人の良さそうなおじいちゃんだ。
彼はアデリーノのお墨付きだし、信頼できるよね。
アデリーノとハンクが荷物を馬車の屋根に乗せ、紐で固定した。
「こちらには貴重品が入っておりますので、屋根の上ではなく、客席にお置きいただく方がよろしいかと存じます」
「うん、お願い」
アデリーノは貴重品の入った荷物を客席に乗せた。
「こちらはエアネスト様のためにご用意いたしました剣でございます。
道中において必要となることもあるかと存じます」
「わぁ、ありがとう」
僕はアデリーノから剣を受け取った。
彼が僕にくれたのは、
エアネストはゲームの攻略対象で、ヒロインの選択肢によっては魔王退治の旅に出ることもある。
だから僕も剣術は幼少の頃から習っている。
エアネストはどちらかと言えば魔法攻撃が得意だから、剣術は他キャラと比べると今ひとつなんだけどね。
攻略対象の中で剣術が一番得意なのはヴォルフリック。
彼は剣も魔法もどっちも使えて、加入時のレベルも高い万能キャラだ。
僕は魔力を失ったから魔法を使えない。だから頼りになるのは剣の腕だけ。
これからは自分の身は自分で守らないといけない。剣術が苦手だなんて言ってられない。
シュタイン侯爵領に着いたら、ヴォルフリック兄様に剣術を習おう。
「こちらはキャンディでございます。
道中にお召し上がりくださいませ」
「本当、嬉しいよ」
アデリーノからリボンのついた小さな袋を手渡された。
中身はキャンディなんだ。今から食べるのが楽しみだな。
彼は本当に気が利くな。城に残していくのがもったいないくらいだ。
「ヴォルフリック殿下、エアネスト閣下、どうぞご無事で道中をお過ごしくださいませ」
「アデリーノは一緒に来ないの?」
僕はダメ元で尋ねてみた。
「エアネスト、わがままを言ってはいけない。
アデリーノにも城での仕事があるんだ」
「そうなんですね」
彼がいたら侯爵領でも快適に過ごせそうなんだけどな。
お仕事があるんじゃ仕方ないよね。
「わたくしもヴォルフリック殿下にお供いたしたく存じましたが、殿下のご意向により叶いませんでした」
「そう言うなアデリーノ。
城中に目と耳があった方が良いと思っただけだ」
そっか彼がお城に残れば、国王や王妃やワルフリートやティオの動きを報告してもらえるもんね。
「ヴォルフリック殿下、エアネスト閣下、どうかお元気でいらっしゃいますように」
「うん、アデリーノもね。
見送りに来てくれてありがとう」
「バスタードソードを大事に使う。
そなたも達者でな」
そういえば昨日、兄様が部屋に帰ってきた時、剣を一振り手にしていた。
それはゲームでヴォルフリックが使っていた剣とよく似たデザインだった。
兄様はどこで剣を手に入れたんだろうと思ってたけど、アデリーノからもらったものだったんだね。
「ご武運をお祈り申し上げます」
アデリーノに見送られ、僕と兄様は馬車に乗り込んだ。
馬車に乗る時、兄様がエスコートしてくれた。
人前で兄様にエスコートされるのは、少し照れくさい。
でも、それ以上に嬉しかった。
「出立します!」
ハンクがそう掛け声を上げると、馬車が動き出した。
僕は馬車の窓から城を振り返った。
アゼリーノがいつまでもこちらに向かって頭を下げていた。
僕は馬車の窓を開け、アテリーナに向かって手を振った。
これから旅が始まる。
シュタイン侯爵領ではどのような出来事が待ち受けているのだろう?
僕は期待と不安に胸を膨らませていた。
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