第16話「第一王子ワルフリート、第二王子ティオ」



「陛下、エアネストの髪と瞳の色が変わった件、大変申し訳ありませんでした。

 どうかわたくしに今一度機会をいただけませんでしょうか?

 次は以前のエアネストより美しい金髪に、濃い青い目の子を生んでみせます。

 今度は、途中で魔力を消失させるような子供には育てませんから」


ルイーサは今から僕の弟か妹を産むつもりらしい。


「うむ。

 エアネストのことは気の毒であったが、そちに落ち度はない。

 引き続き王妃として公務に励むように。

 また、そなたは貴重なダークブロンドの持ち主だ。

 もう一人子を儲けるることについても、前向きに検討しよう」


「ありがたき幸せ」


陛下もルイーサが子供を産むことに賛成のようだ。


「父上、王妃殿下との間にもう一人子を儲けるつもりですか?

 エアネストが魔力を失った今、

 ローズブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ俺かティオが、

 王太子の有力候補ではないのですか?

 いえ、長男である俺こそが世継ぎに相応しい!

 そうは思いませんか!?」


ワルフリートが二人の会話に割って入った。


脳筋ですぐ感情的になるワルフリートが、王太子に向いているとは思えない。


どちらかと言えば、頭脳明晰なティオの方が王太子に向いてると思う。


彼の皮肉屋な性格も、王太子になれば洞察力が鋭くユーモアのセンスがあると捉えることもできる。


「そうだな。

 そなた達が何か功績を立てれば考えてやろう。

 例えば魔王を倒すとかな」


ヒロインのソフィアは隣国に嫁いでしまった。


となると、魔王討伐はワルフリートかティオの単騎、もしくは二人が協力して行うことになるだろう。


二人でレベルを上げれば、ヒロインがいなくてもなんとかなるかもしれない。


「わかりました!

 必ずやこの手で魔王を討ち取ってみせます!

 ティオ、お前も俺に協力するよな?」


「ええ、兄上一人で旅をさせるのは心配ですからね」


ワルフリートとティオ、二人で魔王討伐に行くことに決めたようだ。


「王妃殿下、あんたの好きにはさせねぇからな!」


「ふん、貴方がたが帰国する頃には、わたくしはプラチナブロンドに青い目の子供を生んでいるわ」


「たく、口の減らないおばさんだぜ」


「なんですって!

 ワルフリート、それが王妃であり継母である私に対する態度なの!」


ワルフリートとルイーサの言い争いが始まった。


「おばさんを相手にしても仕方ねぇや」


ワルフリートはルイーサとの言い争いを止め、僕の所に歩いてきた。


「エアネスト、シュタイン侯爵領に行くのは寂しいだろう?

 女装して俺の所に来れば、メイドとして雇ってやってもいいぜ。

 髪は地味な色になったが、お前は顔の作りは良い。

 魔力のない奴は俺の傍にはおかないんだが、お前は美形だから特別に俺の傍に侍ることを許可してやるよ」


「ワルフリート兄上、それはいささか趣味が悪いですよ」


「ティオ、邪魔するな。

 今まではエアネストは父上と王妃殿下の寵愛を受けてたから、手が出せなかった。

 だがこれからは違う。

 エアネストは王位継承権を剥奪され、ただの臣下に成り下がった。

 俺がこいつに何をしようが誰も咎めない。

 エアネスト、俺のメイドになれ。

 お前だって辺境で動物やモンスターや辛気臭い村人に囲まれて侘びしく暮らすより、

 王都で王太子になった俺に仕えた方が幸せだってわかってるんだろう?

 お前が踊り子の服を着て、セクシーな踊りでも披露してくれたら、

 俺が国王になった時、王位継承権を復活させてやってもいい……ぞ、ぐぼぉぁぁぁ……!!」


ワルフリートが全てを言い終わる前に、ヴォルフリック兄様が彼の顔面を殴っていた。


兄様に殴られたワルフリートが、床の上を無様に転がる。


「大丈夫ですか、ワルフリート兄上?!」


ティオが倒れているワルフリートに駆け寄る。


「ヴォルフリックてめぇ!

 兄である俺に手を上げるとはどういう了見だ!!」


しばらくしてワルフリートは殴られた方の頬に手を当てながら、上半身を起こした。


「私が丸腰であったことに感謝しろ。

 私が剣を所持していたら、お前の首は胴体とおさらばしていた」


兄様が人を殺すような冷たい目つきで、そう言い放った。


「ヴォルフリック、貴様〜〜!

 病気が治って塔から出て来たばかりだってのにいい態度だな!

 ガリガリに痩せ細って見る影もなくやつれてたら、からかってやろうと思ってたのによぉ!

 長身のイケメンに成長して現れやがって……!

 気に入らねぇ!

 そんなに死に急ぎたいなら表に出ろ!

 真剣で勝負してやる!

 病が完治したとこ悪いが、

 また一日中ベッドでおねんねして過ごす生活に逆戻りだな!

 もしかしたら棺桶の中で永遠の眠りにつくことになるかもなぁ!」


ワルフリートがヴォルフリック兄様に決闘を申し込んだ。


ワルフリートの攻撃は通常時、ほとんど当たらないから、彼に勝ち目はない……と思う。


だけど真剣で勝負するなんて……。


万が一ってこともあるし、兄様の身が心配だ。


「やめんか!

 ここをどこだと思っている!」


そんな二人を国王が一喝した。


「ヴォルフリックよ、何故ワルフリートを殴った?

 理由を申してみよ」


「申し訳ありません陛下。

 ワルフリートの顔に大きな蚊が止まっていたので、

 蚊を仕留めようとしたのですが、

 思ったより力が入ってしまったようです」


ヴォルフリック兄様がサラッと嘘をついた。


「てめぇ嘘つくなよ!

 蚊なんてどこにもいなかっただろが!」


兄様の言葉を聞いて、ワルフリートはさらに頭に血が上ったようだ。


「黙れワルフリート。

 余はそちに発言を許していない」


「……申し訳ありません、父上」


国王に叱られ、ワルフリートはおとなしくなった。


「蚊か……。

 ヴォルフリック、此度はそなたの言い分を信じよう。

 だが、二度目はないぞ」


「承知いたしました、陛下。

 眼前をお騒がせして申し訳ありません」


「父上!

 何故、ヴォルフリックを庇うのですか!?

 奴が精霊の血を引いているからと、ひいきするのはずるいです!」


ワルフリートが国王に抗議をする。


「そう吠えるなワルフリート。

 余がヴォルフリックをひいきする理由を、

 そちはすでにわかっているではないか。

 今後はヴォルフリックには構うな。

 精霊を怒らせると面倒だ」


「しかし、父上……!」


「わかったな?

 ワルフリート」


「はい……父上」


国王に釘を差され、ワルフリートはしょんぼりしている。


「私を怒らせたくないのなら、今後二度とエアネストに構うな。

 次は蚊を潰す程度の攻撃ではすまさんぞ」


「ヴォルフリック……クソが、調子に乗るなよ!」


「ワルフリート、余の命に背くのか?」


「いいえ、父上そのようなことは決して……!

 ヴォルフリック、命拾いしたな」


ワルフリートはぶつぶつ言っていたが、一応は納得したようだった。


「陛下、お話が終わったようですので、私達はこれで失礼します」


「そうだな、ヴォルフリックとエアネスト、二人はもう下がって良いぞ」


「お言葉に甘え、これにて失礼します」


「陛下、僕もこれで失礼します」


僕は兄様と共に国王に深くお辞儀をして、謁見の間をあとにした。


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