第11話「髪と瞳の色について」




国王と謁見することになった。


謁見の時間が迫り、実はちょっと緊張している。


ここで王族の人間関係についておさらいしておこう。


第三十一代エーデルシュタイン王国、国王ジキワルド。


第一王子ワルフリート、第二王子ティオ、そして第四王子である僕の父親だ。


ワルフリートとティオは、国王と第一王妃アンナ様の子。


アンナ様は、ワルフリートとティオが幼い頃に亡くなっている。


第三王子ヴォルフリックは、魔王と第二王妃レーア様の子。


世間的には、国王と第二王妃レーア様との子ということになっている。


ちなみにレーア様は父親が精霊、母親が人間で、精霊と人間のハーフだ。


レーア様はヴォルフリックを生んですぐに亡くなっている。。


そして第四王子である僕、エアネスト。


僕は国王と第三王妃ルイーサの子だ。



第三王妃である母は存命だ。




◇◇◇◇◇



この世界の髪と目の色についておさらいしておこう。


銀色の髪と紫の瞳は、精霊とその血を引くものにしか現れない。


なのでこの世界で、一番貴重で高潔な色とされ、人々の崇拝の対象になっている。


黒い髪と黒い目は、魔族と魔族の血を引く者にしか現れない。


純血の人間で一番高貴な色は、金髪と青い目。


その中でもより輝いて見えるプラチナブロンドは、特に貴重とされている。


この世界では僕のいとこのソフィアがプラチナブロンドだ。


金色の髪を持つ人間は、強い光属性の魔力を持っている。


プラチナブロンドの次がダークブロンド、次がローズブロンド。


国王ジキワルドと第三王妃ルイーサはダークブロンド。


第一王子ワルフリートと第二王子ティオはローズブロンド。


茶色の髪の人間が一番多く、魔力の属性も様々だ。


茶髪の中でも色が黄に近いほど魔力が高く、濃い茶色に近いほど魔力が少ない。


貴族のほとんどが黄色に近い茶髪で、平民は濃い茶色の髪をしている。



◇◇◇◇◇◇



次に瞳の色の説明をしよう。


紫は精霊と精霊の血を引く者にしか現れず、黒は魔族と魔族の血を引く者にしか現れないということはさっき説明したよね?


純血の人間の中で一番魔力が強く、魔力量が多いのが濃い青の瞳だ。


濃い青色の瞳を持つ者は、王族と王族の血縁者のみ。


この色は王族でもごく一部のものにしか現れない、とても貴重な色とされている。


次に魔力が強いのが水色。


その次が緑色。


水色と緑の瞳を持つ王族や貴族は多い。


彼らの魔力量は中程度。


黄色と茶色の瞳の者はほとんど魔力がない。


平民のほとんどが黄色か茶色の瞳だ。


魔力がゼロなのが灰色の瞳。


今の僕の瞳の色はこの色だ。


灰色の瞳を持つ者はほとんどいない。




これらの事は別に覚えなくてもなんの問題もない。


頭の片隅になんとなく置いといてくれたらうれしい。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




執事アデリーノが呼びに来たので、僕は兄様と共に玉座の間へと向かう事にした。


執事の後について謁見の間に向かう。


正直に言うと国王に会うのは緊張する。


国王はエアネストの父親だけど、前世の記憶を取り戻してから会うのは初めてだ。


それに、王様とか、謁見の間という言葉は、前世庶民だった僕には威圧的な響きに感じる。


「ヴォルフリック兄様……」


「どうした?」


隣を歩いていた兄様の袖をちょんちょんと引っ張る。


「国王……いえ、父様に謁見すると思ったら緊張して……だから、手を……繋いでもいいですか?」


兄様は僕の言葉を聞いて少しだけ頬を赤らめた。


「上目遣いでそのお願いは可愛すぎるだろ!

 あざといのか、無自覚なのか……!

 おそらく後者だろうな……!

 だとしたら天然記念物なみの純粋さだ!

 私が傍にいてしっかりと保護しなくては……!」


兄様がボソボソと呟いていたけど、僕にはよく聞こえなかった。


「駄目……ですか?」


「そなたから、そのような可愛らしい頼みをされて、私が駄目だと答える訳がないだろう」


兄様はふわりと微笑んで、僕の手を握った。


握った手から彼に手のぬくもりが伝わってくる。


さっきまで緊張でドキドキ鳴っていた心臓の鼓動が落ち着いてきた。


兄様の指が僕の指を絡め取る。


待って……この繋ぎ方って……、もしかして恋人繋ぎ……?!


僕は普通に握手するみたいに、手を繋げればよかったんだけど……兄様ったら弟相手に恋人がするみたいな手の繋ぎ方をしてくるなんて……過保護すぎるよ!


兄様がそんな繋ぎ方するから……心臓の鼓動が早くなってしまうよ……!


そうだ。何かをして気を紛らわせよう。


何かしていないと、兄様と繋いだ手に意識が集中してしまう……!


「ヴォルフリック兄様、国王に……父様に会うのは久しぶりでしょう?」


僕は会話をして、気を紛らわせることにした。


「やはり会えるのは嬉しいですか?」


だけど兄様が眉間にしわを寄せた。


「私の髪と瞳が黒くなったというだけで、

 十三年間牢に入れるような男に会いに行くのだぞ……嬉しい訳がないだろう?」


そうでした。


国王は兄様の育ての親ではあるけど、二人に血の繋がりはない。


その上、国王は兄様を牢屋に入れた張本人だ。


そんな人に会いに行くのが嬉しい訳がないじゃないか……!


それなのに僕はなんて無神経な質問をしてしまったんだ!


兄様はきっと、僕以上に国王に会いたくないはず。


それなのに兄様は、そんな素振りを少しも見せず僕を気遣ってくれてる。


兄様の事を考えていたら、胸がキューンと音を立てた。


なんだろう? 今の「キューン」は??


「国王は民衆が城に押し入り、私を殺そうとしたのを知りながら、止めにも来なかった」


「えっ……? 

 父様は昨日の段階で、民衆が兄様を襲うとしたのを知っていたのですか?」


「仮にも奴は国王だ。

 奴は諜報員を何人も飼っている。

 そいつらを通じてこの国で起きたことは、国王のもとに届けられる。

 そんな奴が、牢屋が民衆を誘導し、城に攻め込もうと計画していたのを知らないと思うか?」


「それでは父様は……」


「そうだ。

 国王は何もかも知っていて、計画を放置していたのだ。

 私を牢屋に放り込んだものの、何年経過しても精霊の色が戻る気配がない。

 奴はこの期に乗じて私を殺そうとしたのだろう」


「そんな……」


「城に民衆が攻め込んで来たとき、城の兵士は何をしていた?

 奴らは何もせず、持ち場を守っていただけだ。

 通常ならそんなことありえない。

 そもそも城は堀と塀に囲まれている。

 武器を持った民衆が城に入って来られたこと自体がおかしいとは思わないか?

 本来なら奴らは、兵士に拒まれ城門すら越えられなかったはずだ」


「うっ……」


「私が死んだ事を後で精霊に咎められとしても、『民衆が勝手にやったことだ』と言い訳も出来るしな」


確かに、ゲームの中のイベントだから制作者の手抜きかなんかで、その辺の設定はふわっとしてるのかと思ってた……。


だけどこれが現実だとしたら、武器を持った民衆が城に入ってきて、牢屋に捕らえられている第三王子を襲うって、相当の異常事態だよね。


「それでは父様は、ヴォルフリック兄様を……」


「そう不安そうな顔をするな。

 そなたのお陰で、私はこの通り銀色の髪に紫の瞳に戻れた。

 銀髪紫眼を持つ者は民の崇拝の対象だ。

 国王とて滅多めったなことはできん」


兄様はそう言って、僕を安心させるように笑った。


「私の事はいい。

 それよりも気をつけなければならないのはそなただ」


「えっ?」


「プラチナブロンドの髪と、濃い青い目を失ったそなたを、あいつらがどう扱うか……。

 あいつらが、今まで通りに接してくれるとは思うな。

 奴らに何を言われても動じぬように、心の準備をしておけ」


エアネストから受け継いだ記憶をたどる。


彼は父親である国王からも、実母である第三王妃からもとても可愛がられていた。


腹違いの兄である第一王子と第二王子からも、大切に扱われていた。


家族だけではなく、兵士や使用人からも宝石箱に入った高価な宝石のように、大事に大事に扱われていた。


それはエアネストがプラチナブロンドの髪に、濃い青い目を持って生まれ、

光り属性の魔力を持つ王太子の有力候補だったからで……。


金色の髪と青い瞳を失ったら……やっぱりみんな変わってしまうのかな?


今までのように接してくれないのかな?


銀色の髪を失った時、ヴォルフリック兄様もこんな思いをしたのだろうか……?


僕が暗い気持ちになったのを察したのか、兄様が僕と繋いでいた手をぎゅっと握ってくれた。


「大丈夫だ。

 何があってもそなたの傍には私がいる。

 何があってもそなたのことを守る。

 約束しただろう?

 永遠にそなたの傍にいると」


そうだ僕にはヴォルフリック兄様がいる。


「はい」


兄様の言葉で不安が一気に和らいだ。


今は兄様と繋いだ手から感じる温もりを信じよう。





◇◇◇◇◇




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