第12話「国王との謁見」
謁見の間は荘厳華麗で、厳かな雰囲気を醸し出しており、それは入ってきた者を威圧する力があった。
部屋の窓にはセンスのよいステンドグラスがはめられ、
天井からは大きなシャンデリアがつるされていた。
国王のいる玉座は二段差ほど高くなっていて、黄金色の大きな椅子が二つ並んでいる。
玉座の下には、金色で縁取られた深紅の毛せんが敷かれていた。
エアネストの部屋で過ごすことで、城の華美な装飾には慣れたと思っていたけど……。
謁見の間は僕の想像を超えるゴージャスな場所だった。
向かって左側の玉座に、国王が座っていた。
彼はエーデルシュタイン王国の第三十一代国王ジキワルド。
国王ジキワルドはウェーブのかかったダークブロンドの髪を肩まで伸ばしており、水色の鋭い目をしていた。
顔立ちはハリウッドスターみたいに堀が深く、ハンサムだった。
攻略対象であるワルフリート、ティオ、エアネストの父親だけあって、歳を重ねてもかなりの美形だ。
それに王様だけあって、この豪華な部屋に負けない威厳と貫禄を兼ね備えている。
僕一人でここに来たら、きっと泣いてた。
でも今はヴォルフリック兄様が一緒だから大丈夫。
国王の威圧的なオーラになんか負けない。
「久しいなヴォルフリック。
遅かったなエアネスト」
玉座の前まで進み出た僕らを見て、国王が声をかけてきた。
「お呼びにより参上いたしました。
遅参いたしましたこと、深くお詫び申し上げます」
僕はなんとか無礼にならない言葉を選び、返事をした。
兄様は国王に声をかけられても無視していた。
凄いな。兄様は鋼のメンタルの持ち主だ。
「人払いをする。
ヴォルフリックとエアネスト以外の者は部屋から出ていけ」
国王が手で合図をすると、謁見の間にいた衛兵が部屋を出ていった。
僕らをここまで案内してくれた執事のアデリーノも、部屋を出ていこうとしていた。
「陛下、アデリーノは全ての事情を知っています。
この場にいても問題ないでしょう?」
「まぁ良い、好きにしろ」
兄様の要求を国王は受け入れた。
そんな訳でアデリーノは部屋に残る事になった。
「これでこの部屋には私が魔王の血を引いていること、
私が国王の実子ではないこと、
十三年前魔王に髪と瞳黒く染められ、
陛下により地下牢に幽閉された事を知ってる者しかいなくなりましたね」
「ヴォルフリックよ、何が言いたい?」
「陛下、今さらとぼけることもないでしょう?
昨日、民衆が鎌や
私が閉じ込められていた牢屋を襲ったことを、
国王であるあなたが知らぬ訳がないのだから」
兄様は皮肉をたっぷり込めてそう言った。
彼が国王を「父」ではなく「陛下」と呼ぶのは、国王と血が繋がっていないからかな?
「口の利き方がなってないな。
国王である余に対し、なんと無礼な」
国王は鋭い目つきで、兄様を見すえる。
「では陛下にもわかるようにはっきりいいましょうか?
昨日、民衆の起こした騒動に乗じて私を殺そうとしましたね?」
「不敬だぞ、ヴォルフリック」
「おかしいではありませんか、城の周りには城壁も堀もあるのに、彼らはどうやって城の中に入ったのです?
武器を手にした民衆が城に侵入したのに、兵士はなぜ駆けつけなかったのですか?」
「さぁな、手引した牢番が優秀だったのだろう」
「あくまでも白を切り通すつもりですか?
ならば牢番や民衆に直接話を聞くとしましょう」
「それは無理だな。
主犯である牢番は兵士に捕らえられる前に、民に暴行を受け、辛うじて命はあるが口を聞くこともできん。
民衆の取り調べは、これから余が直々に行う。
奴らも牢番と同じ運命を辿ることになるだろう」
このままでは昨日城に入ってきた民が殺されてしまう!
主犯の牢番はともかく民衆はただ誘導されただけなのに……!
「父様、発言をお許し下さい!」
「なんだエアネスト?」
「民衆は牢番に誘導されただけです!
彼らは半年間雨が降らなくて、
その怒りを誰かにぶつけたかっただけなんです!
お願いします!
どうか彼らの罰を軽くして下さい!」
「それはできん相談だな」
「ですが……」
「くどいぞ、エアネスト!
武器を持って城に侵入した者共を、生きて城から出すことはできん!」
僕の願いは国王に一蹴されてしまった。
僕は王子だけどなんの力もない……。
民も救うことが出来ないなんて……。
「案ずるなエアネスト。
私はそなたを苦しめるような事はさせない」
「兄様……?」
何故かわからないけど、ヴォルフリック兄様の声を聞くと落ち着く。
僕に出来ないことも、兄様ならなんとかしてくれそうな気がする。
「では陛下、こうしてはいかがでしょう?
民衆は半年間雨が降らず不安に怯えていた。
そんな時彼らは、城の地下牢に精霊の血を引く神子が監禁されているのを知った。
彼は精霊の神子である私を助ける為に城に侵入した。
彼らが手にしていた鎌や
助けられた精霊の神子は、彼らの勇気ある行動に答え雨を降らせた……と。
いかがですか?
これなら誰も処罰されずにすみます
ね」
確かにそれなら誰も傷つかない。
「正気か?
余がそんな世迷言を信じると思っているのか?」
だが兄様の案も国王に一蹴されてしまった。
「そうした方が陛下にも利益がありますよ。
国王が精霊の血を引く神子を城の地下牢に幽閉し、
邪魔になったので民を誘導して殺そうとした……。
この話が精霊の耳に入ったら……どうなると思いますか?
この国は精霊の加護を失い、森の木々は枯れ、湖は濁り、大地は荒れ果て、民には疫病がまん延する。
やがてこの地に住む者は誰もいなくなりますね……」
「もう良い!
止めよ!」
「では、民衆を速やかに開放して下さい。
言っておきますが、私はこの地に加護を与える精霊といつでもコンタクトが取れます」
「ハッタリを申すな。
お前にそのような能力は無かったはずだ」
「つい最近目覚めたのですよ。
この髪の色が銀色に戻ってからね。
嘘だと思うのなら試してみましょうか?」
「良い。
分かった。
民衆は今すぐ開放する」
「主犯の牢番は永久に牢屋に入れておいて構いませんから」
「後で衛兵に伝えておく」
凄い!
ヴォルフリック兄様は国王相手に自分の要求を通してしまった!
かっこいい!
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