第10話「永久にそなたの傍に」*


*キスの描写有り

 


兄様に手伝ってもらい着替えを終えた。


そういえば髪の色が変わってから、まだ鏡を見ていなかった。


僕は部屋の隅にある大きな姿見の前に立ち、自分の姿を鏡に映した。


そこには水色のジュストコールを着た育ちの良さそうな美少年が映っていた。


エアネストの顔立ちは十八歳にしては幼くて、十五歳ぐらいに見える。


僕のプラチナブロンドだった髪は濃い茶色に、濃い青だった瞳は灰色に変わっていた。


髪の色は少し地味になったけど、顔の作りが変わった訳ではないから、美少年なことに変わりはない。


やはり美しく生まれるって得だな。


鏡を見ているのが楽しい。


「エアネスト……」


僕が鏡に映った自分の姿をまじまじと見つめていると、背後から声をかけられた。


振り返るとヴォルフリック兄様が悲壮な面持ちで立っていた。


鏡に映った自分をジロジロ見すぎたかな? 兄様にナルシストだと思われたら嫌だな。


「辛いか……?

 髪と瞳の色が変わったこと……」


セーフ!


兄様にはナルシストだと思われてなかったみたい。


前世の僕はごくごく普通の顔立ちの日本人だった。


髪と目の色が多少地味になったとしても、エアネストが美少年であることに変わりはない。


むしろプラチナブロンドにサファイアブルーの瞳のエアネストは、キラキラし過ぎて……僕には眩しすぎた。


このくらい落ち着いた髪と瞳の色の方が僕にはちょうど良い。


「大丈夫ですよ。

 僕、今の髪と瞳の色が気に入りました。

 だから兄様がそんな悲しそうな顔しないで下さい」


僕は笑顔で伝えた。


兄様の罪悪感を少しでも減らしたい。


僕が勝手に推しである兄様を助けたかっただけなのだから。


「エアネスト……」


兄にぎゅっと抱きしめられた。


まだ過度のスキンシップには慣れてなくて、僕の胸がドキドキと音を立てる。


「兄様?」


「すまない。

 この償いは必ずする」


兄様が僕の髪に顔を埋めた。


ヴォルフリック兄様の身長は187センチ、エアネストの身長は165センチ、頭一つ分くらいの身長差がある。


償いなんて……そんなことを考えなくていいのに。


僕は兄様から少し距離をとり、彼を

真っすぐに見つめた。


「ヴォルフリック兄様、償いなんてそんな悲しい事を言わないでください!

 僕は自ら望んで兄様に光の魔力を譲渡したのです!

 今の髪と瞳の色もとても気に入っています。

 だから兄様が悲しむ必要なんてないんです!」


兄様は僕の話を切なげな顔で聞いていた。


「しかし、それでは……私の気がすまない」


「どうしても償いがしたいとおっしゃるなら、幸せになってください!

 兄様が幸せになることが、僕への一番の償いです!!」


僕が兄様の顔を見てにっこりとほほ笑むと、彼は困ったように眉尻を下げた。


「エアネストには敵わないな」


「兄様、約束してください。

 絶対に幸せになるって」


「約束しよう。

 私は必ず幸せになる」


ヴォルフリック兄様はそう言って僕の腰に回した腕の力を強めた。


僕はためらいがちに兄様の背に自分の腕を回した。


兄様には何度も抱きしめられたけど、僕から抱きしめ返すのは初めてかも……?


「エアネスト、そなたは私に幸せになれといったな?」


「はい」


「私の幸せはエアネスト、そなたの傍にいることだ」


「……?」


家族と仲良く暮らしたいって意味かな?


兄様は牢屋から出てきたばかりで、まだ夢や目標がないんだ。


だから家族と一緒にいたいと思ったんだね。


彼が夢や目標を見つけるまで、僕が支えてあげよう。


「私は永久にそなたの傍にいたい。

 エアネスト、そなたの傍にいることを許可してくれるか?」


兄様のアメジストの瞳に射抜かれた。


「もちろんです、兄様」


家族は一緒に暮らさないとね。


兄弟は仲が良いことに越したことはない。


まぁ……そうは言っても兄様は精霊の血を引く第三王子。


兄様が外の世界の生活に慣れたら、きっと他に楽しいことを見つけて、僕の事など忘れてしまうだろうけど。


それに兄様ほどの美青年を、周りが放っておくはずがない。


きっと兄様はどこに行ってもモテモテで……沢山の女性が言い寄って来るだろう。


そのうちの一人と兄様が恋に落ちたら……。


その時は、兄様の恋を全力で応援しよう!


もともと、僕はソフィアと兄様の恋を応援しようと思ってたし。


兄様の恋の相手がソフィアから他の誰かに変わるだけだ。


…………でも何故だろう。


胸の奥がもやもやする。


兄様が他の人と恋をするのは嫌だと思っている自分がいる。


いやいや駄目だろ!


兄様の未来の恋人に嫉妬するとか、ブラコンが過ぎるだろ!


いつかその時が来たら……ちゃんと兄離れしないとな。


「兄様さえよければ、ずっと一緒にいて下さい」


僕の返事を聞いた兄様がふわりと笑った。


今まで見た中で一番優しい笑顔だった。


「エアネスト!

 私は何があってもそなたの傍を絶対に離れない!

 私たちは永遠に一緒だ」


永遠に一緒だなんて、兄様は大げさだな。


僕を真っ直ぐに見つめる兄様の紫の瞳が、ギラリと光った気がした。


僕の見間違いだよね?


「エアネスト……」


兄様の顔が近づいてくる。


またキスされちゃうのかな?


ちゃんと伝えないと、罪悪感から僕に魔力を返そうとしなくていいんだよって。


なのに兄様に見つめられると……何も言えなくなってしまう。


結局、僕は兄様のキスを受け入れてしまった。


どうしよう?


こんなんで兄様に恋人が出来た時、兄離れ出来るのかな?



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