車内にて
「俊樹君、東京へ行くの楽しみだね!」
「ああ、そうだな」
中間テストが終わり、校外学習の日を迎えていた。
集合場所の東京駅に現地集合となっていたので、俺と佳奈は現在、東京駅に向かう電車に揺られていた。
「積極的にいく事にした」という、宣言通り、あの後、佳奈は俺に前以上にスキンシップを取ってくる様になった。
今も、車内は混んでいる訳ではないのに、佳奈はピッタリと俺に身体をくっ付いて座っていた。
六月になって衣替えがあった。
その為、現在、佳奈は半袖のスクールシャツにスカートという、冬服より肌の露出が多い格好で、ピッタリくっ付いて座っていると、俺は佳奈の体温をより感じていた。
電車に乗ってから、俺はこんなにも佳奈の事を意識してしまっているのに、当の佳奈はすました顔で平然と俺にくっ付いて座っているのを見て、なんだか悔しくなり、俺は動揺している事を佳奈にバレないように平然とした態度を装う事に必死になっていた。
やがて会話が途切れると、俺と佳奈は二人で静かに電車に揺られていた。
この状況のお陰で、佳奈との会話の中でうっかり墓穴を掘る心配が無くなった、と感じた俺は、変わらずになんにも気にしてはいないという態度を取りながらも、佳奈との会話に意識を割く必要が無くなり、内心、安堵していた。
「ねえ、俊樹君」
このままいけば、佳奈に動揺を悟られないまま、目的地に着く事が出来るのではないか、と淡い期待を抱いて安心し切っていた俺は、突然、沈黙を破った佳奈の呟きに、驚き、すぐに言葉を返す事が出来なかった。
「……佳奈。どうしたんだ?」
「ねぇ、俊樹君、もしかして緊張してる?」
俺がなんとか言葉を搾り出すと、佳奈はジッと俺の顔を見て、ぽつりと呟いた。
「え! いや、その……」
佳奈の核心を突いたその一言に、俺は大いに動揺して、言葉を返すどころではなく、佳奈の目の前で慌てた姿を晒してしまった。
これは、まずい、佳奈になんと言って、この状況を乗り切ろうか、と考えていると、そんな俺の事を見て、佳奈が優しく微笑んだ。
俺が佳奈が何故、急に微笑んだのか不思議に思っていると、佳奈が、「必死に隠している俊樹君、可愛い」と、言って、俺の腕に抱き付いた。
佳奈の胸の感触を感じながらも俺は、「他になっている人も乗っているから……」と、なんとか佳奈に伝える事が出来た。
俺の言葉を聞いて、「そ、そうだよね。……ごめん」と、恥ずかしそうに呟いて俺から離れた。
その後、俺と佳奈は互いに一言も言葉を交わす事無く、二人とも顔を真っ赤に染めながら、目的地まで電車に揺られていたのだった。
集合場所に辿り着いた時、俺は既に疲れ切っていた。
すると、先に集合場所に到着をしていた裕也が俺と佳奈に気が付いて、こちらに向かって来た。
裕也は俺と佳奈の顔を見ると、不思議そうな顔をして口を開いた。
「……なんで二人とも顔が真っ赤なんだ」
「えっ、いやまぁ、大した事はないよ」
裕也の指摘に適当に誤魔化しながら、俺は今日一日大丈夫だろうか、と不安になるのだった。
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