幼馴染と勉強

部屋に入り、俺と佳奈がクッションに腰を下ろすと、佳奈がキョロキョロと俺の部屋を見始めた。


「佳奈、キョロキョロしてどうしたんだ?」


俺はそんな佳奈が気になって声を掛けた。


「……あ、えっと、その」


俺が声を掛けると佳奈は見るからに慌てて始めた。


「……俊樹君の好みを探していました」


俺が不思議そうな顔をして、佳奈に話す事を促すと、佳奈は小さな声で呟いた。


「好みって家具の?」


佳奈が見回して見える物は家具と後は漫画くらいだろうか。

家具は特に拘りはないし、漫画に関しては時々佳奈と貸し借りをしているので、改めて好みを探す必要は無いと思うのだが。


佳奈は僕の言葉に小さく首を横に振った。


それでは、何を探していたのだろう、と気になった俺は、「それなら、何を探していたんだ?」と、佳奈に続けて聞いた。


「え! えーと」


僕の言葉に佳奈は大きく驚くと、ソワソワと落ち着かない様子で頬を掻いた。


俺が黙って、佳奈に話の続きを促した。

しばらく時間が経って観念したのか、顔を真っ赤に染めながら、静かに口を開いた。


「……その、え、エッチな物」


「……は?」


佳奈が絶対に言わないであろう単語が聞こえてきた様な気がして、俺は思わず聞き返していた。


佳奈は、今、「エッチな物」と、言ったのか?

恋愛の話でも顔を赤く染めて恥ずかしがるくらい初心な、あの佳奈が?

あまりにも有り得ない状況に俺の頭はフリーズし、何も言えなくなってしまった。


「そ、その、俊樹君がどんなエッチな物をいつも見ているのか、と思って」


俺が黙ってしまい、気不味くなったのか、佳奈は慌てて言い繕った。


「……それを知って、佳奈はどうするんだ?」


なんとか思考が復活した俺は、誰もが抱くであろう疑問を佳奈に投げ掛けた。


僕の言葉に佳奈は視線を下げてしばらく黙ってしまった。

俺はその間に落ち着きを取り戻していると、やがて佳奈が静かに口を開いた。


「……その、俊樹君が好きそうな、し、下着を着けるとか?」


ガン!


「きゃ!」


佳奈の言葉を聞いた瞬間、あまりにも大きな衝撃を受けた俺は身体の力が抜け、机に頭を打ち付けた。


「大丈夫? 俊樹君!」


佳奈の俺の事を心配する声が聞こえる中、俺は貞操観念が男女逆転した世界に迷い込んでしまったのではないかと本気で思うのだった。



「俊樹君、もう頭大丈夫?」


「あ、ああ。なんとかな。そろそろ勉強をしようか?」


あれから時間を掛けて復活をした俺は、気遣う佳奈にそう言葉を返して、ようやく勉強を始める事になった。


「佳奈はどの教科から勉強をするんだ?」


俺の言葉を聞いて、佳奈は鞄から数学の教科書を取り出すと、その教科書を開いて俺に見せてきた。


「この問題が難しくて…… 俊樹君、分かる?」


「ああ、因数分解の応用だな。これは……」


いざ、勉強をし始めると、先程のおかしな空気は無くなり、俺と佳奈はしばらく真面目に勉強した。


いつもの佳奈に戻ってくれた、と俺は思い、安心し切った時だった。


「ねぇ、俊樹君、この問題も教えて欲しいな」


それまで、僕と少し離れて勉強をしていた佳奈は、そういうと身体をピッタリと僕にくっつけて来た。

佳奈はラフな部屋着姿で薄着な為、佳奈の柔らかく温かい肌や良い匂いを直に感じ、俺は身体が緊張するのを感じた。


「……佳奈、身体が近くないか?」


「……だって、問題がよく見えないから」


そう言われてしまうと、それ以上に返す言葉が思い付かない俺は、諦めて、佳奈とピッタリと寄り添ったまま勉強を教える事にした。


「この問題は、ここをこうして……」


「ん? よく見えない」


俺は佳奈の熱や息遣いを感じながら、動揺を必死に隠して、勉強を教えていると、佳奈がそう言って、突然、身を乗り出した。


その時、俺の腕に佳奈の胸が当たり、その柔らかな感触は、必死に隠していた動揺にとどめを刺した。


「わぁ!」


「きゃ!」


俺は佳奈の胸の感触に驚き、思わず腕を振り解いた。

佳奈は、俺が腕を振り解いた事で驚き、佳奈の身体が後ろに倒れそうになった。


このままでは、佳奈が身体を床に打ちつけてしまう。

そう思った俺は、勢い良く佳奈の背中に腕を回して抱き寄せた。

互いの吐息を感じる事が出来る程、俺と佳奈の顔は近くにあった。


「……俊樹君、ありがとう」


「……いや、俺が悪かったし」


そして、訪れる静寂。

俺はこの機会に、ここ最近の佳奈の様子について尋ねてみよう、と思った。


「…‥最近、前より距離感が近くなったよな。どうしたんだ?」


「……どうしてだと思う?」


俺の質問に、佳奈は真っ直ぐに俺の目を見ると逆に尋ね返してきた。


俺は、その理由について必死に頭を回転させて考えてみたが、心当たりを見つける事が出来なかった。


しばらくしても俺の答えが返ってこないのを見て、佳奈は微笑むと口を動かした。


「……私、俊樹君に妹じゃなくて、女の子として見られたい」


「えっ?」


佳奈の言葉に、俺は驚く事しか出来なかった。


佳奈は身体を俺から離すと、「さぁ、勉強の続きをしようか」と、呟いた。


そのまま、佳奈は机に向かうと問題を解き始めてしまい、結局最後まで佳奈との間にさっきの事について話が出る事は無かったのだった。

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