大きくなりました

「俊樹君と動物園に行くの久し振りだから、すごく楽しみだね」


「確かに、そうだな。佳奈と最後に動物園に行ったのは小学生の時だったから、そう考えるとあっという間だな」


ロングホームルームの時間に校外学習のルートを決めた日の放課後、僕と佳奈は二人で通学路を歩きながら、思い出話に花を咲かせていた。


「そうだね、丁度、動物園に行った時の頃から俊樹君、どんどん大きくなったよね」


「あの時、丁度成長期だったからな」


「それまでは、私と同じ位だったのに。良いなー、私も俊樹君と同じ位に大きくなりたかったよ」


佳奈は、羨ましそうに俺を見上げながらそう言った。


「まぁ、俺は男だからな。佳奈より背が高くなるのは当たり前だろ? それに佳奈だって、大きなっているぞ」


小さかった頃の佳奈を思い出して、俺は懐かしい気持ちになりながら佳奈に言った。


「それはそうだけど、羨ましいな」


佳奈はそう言うと、腕を組んで、「うーん」と、言って悩み始めた。


俺はそんな佳奈を見て、驚きの声を上げそうになるのを必死で堪えた。


佳奈が腕を組んだ事により、佳奈の豊かな胸がさらに強調され、どうしても俺は意識せざるを得なくなってしまったのだ。


一昨日まで、佳奈の胸なんて特に意識をした事が無かったのに、昨日、佳奈に抱き付かれてから、佳奈の胸を意識する事が増えてしまっている。


俺は佳奈の胸を見ない様に意識しながらも、チラチラと見てしまっていると、俺の視線に気が付いた佳奈が、「俊樹君、さっきからチラチラと何を見ているの?」と、言って佳奈は自分の身体に視線を向けた。


すると、自身の胸の状態に気が付いたのか、佳奈の顔が赤く染まり始めた。


「……もしかして、俊樹君が、『大きくなった』って、言ったのは私の胸の事なの?」


そう言って、ジッと見詰める佳奈の視線に俺は、「ち、違うって」と、慌てて否定したが、我ながらこんなに焦っていては説得力が皆無だな、と思った。


案の定、佳奈は納得していない様子で、両手で自分の上半身を隠すように覆うと、「……俊樹君の変態」と、小さな声で呟くのだった。


俺は佳奈にどう言い訳したものかと焦っていると、そんな俺を見た佳奈が笑みを浮かべた。


「そんなに焦んなくても、俊樹くんだったら言ってくれれば、いつでも見て良いよ?」


笑みを浮かべて何を言われるのだろう、と身構えていた俺は、佳奈のその言葉の意味がよく理解出来ず、「えっ?」と、言葉を返す事しか出来なかった。


すると、佳奈は自分の言った事に恥ずかしくなったのか、顔を赤く染めると恥ずかしそうに咳払いをして、「まぁ、とにかく、校外学習、楽しみだね」と、早口で言った。


俺は、変な話の流れを変えるチャンスだ、と思い、「その前に中間テストがあるけどな」と、言葉を返した。


俺の言葉に佳奈は、「忘れてたのにー」と、嫌そうな表情をしながら言った。


「まぁ、そう言うなって。今回も一緒に勉強するか?」


「うん、お願いしていい?」


俺は佳奈の言葉に頷くと、「そうしたら、早速、今日からやるか」と、佳奈に提案した。


「うん、分かった。帰ったら、勉強道具を持って、俊樹君の家に行くね。勉強を頑張るぞ!」


そう言って、気合いを入れている佳奈を微笑ましく思いながら、俺は佳奈が来る前に部屋の掃除をしなくては、と考えるのだった。



その日の夜、佳奈と約束をしていた時間丁度にインターフォンが鳴った。

俺はドアを開けると、「いらっしゃい」と、言って、佳奈を玄関に通した。


「お邪魔します」


佳奈は靴を脱ぎながら、そう言うと、言葉が帰ってこない事に不思議そうな顔をした。


「あれ? 俊樹君のお父さんとお母さんは?」


「父さんと母さんは今日仕事で帰って来るのが遅いんだ」


僕の言葉に佳奈は、「えっ」と、言って少し驚いた様子だった。


いつも俺の両親が居なくても、普通に俺の家に遊びに来ていたので、敢えて前もって伝える事はしていなかったのだが、まずかっただろうか。


「佳奈、もしあれだったら、別の日にするか?」


俺の言葉に佳奈は慌てて首を横に振った。


「あっ、違うの! 久し振りに俊樹君の家で二人きりだなって思っただけだから気にしないで」


その言葉を聞いて、佳奈と俺の部屋で二人きりという事を改めて考えると、何故か緊張を感じている自分に気が付いた。


今まで、佳奈の事は妹のような存在だとずっと思っていたが、この二日間で、佳奈の女子の部分を感じる機会が多かったせいで、俺の中で佳奈に対する認識が少し変化をしているのを感じた。


俺はその事に気付き、戸惑いを覚えながら、佳奈と一緒に俺の部屋に向かったのだった。

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