ルート決め
「皆揃っているな。では、これから校外学習の班を決めるから、各自、四人組みになってくれ」
俺のクラスの担任である武井先生の号令で、クラスメイトがそれぞれ席を立って動き始めた。
今はロングホームルームの時間で、校外学習へ向けての準備をする事になっていた。
「長谷川、間宮、こっちこっち」
声のする方へ視線を向けると、桜木が自分の席から俺と間宮の事を手招きして呼んでおり、佳奈は既に桜木の隣で着席をしていた。
俺は頷いて桜木の言葉に応えると、桜木と佳奈の元へ向かって、近くの椅子に座った。
やがて、全員が班を決め終えた事を確認して武井先生が口を開いた。
「よし、全員四人一組になったな。では、改めて今回の校外学習の説明をするぞ。二年生は各班でルートを決めて東京を散策する。これは、修学旅行での班行動の予行練習でもあるから、電車やバス等の交通機関の時間をちゃんと調べてルートを組むように」
武井先生はそこで言葉を切ると、各班に一枚ずつプリントを配った。
「当日は午前十時に東京駅に各自、現地集合だ。そこから班で行動をして、午後四時に東京駅に集合をして現地解散となる。何か質問はあるか?」
武井先生はそう言って辺りを見回すと、手が上がらない事を確認して、「よし」と、大きく頷いた。
「そうしたら、この後の時間はルート決めの時間だ。配ったプリントに時間と場所を記入して終わったら、チェックをするから、俺の所に持ってきてくれ。では、始め」
「三人は何処か行きたい場所はあるか?」
武井先生の説明が終わり、ルート決めの時間になると、裕也が俺達に向かって尋ねた。
「うーん、そうだなぁ」
俺が腕を組んで行き先を考えていると、隣で佳奈が小さく手を挙げた。
「あの、私、パンダが見たいな」
「あっ、パンダ良いね。私も見たい!」
佳奈の提案に桜木が賛同する。
俺は佳奈の言葉で、昔、佳奈と動物園でパンダを見た際に、佳奈がまったくパンダの前から動かなかった時の事を思い出し、懐かしい気持ちになった。
どうやら佳奈は未だにパンダが好きなようだ、と思い、笑みを浮かべた。
「俊樹君、突然笑ってどうしたの?」
どうやら、俺が笑みを浮かべていたのを佳奈に見られていたようだ。
佳奈が不思議そうな顔をして俺に尋ねてきた。
「いや、佳奈がパンダを見たいって聞いて、昔の事を思い出してな」
「ああ、私がパンダの前から中々離れなかった時の話? もう、恥ずかしいからそんな昔の事を思い出さないでよー」
「そんなに恥ずかしがる事はないなだろう? あの時の佳奈は真剣にパンダを見ていて、可愛かったぞ」
俺の言葉に、「うー」と、唸って顔を赤く染めながら恥ずかしがっている佳奈を微笑ましく思いながら見ていると、横から視線を感じた。
俺がそちらを向くと、裕也と桜木がニヤニヤしながら、俺と佳奈を見ていた。
「……二人ともそんなにニヤニヤしてどうしたんだ?」
俺は嫌な予感を感じながらも二人に向かって尋ねた。
「いやぁ、二人とも自然な流れで突然、イチャイチャしだすから。ねぇ?」
そう言って、桜木は裕也の方に視線を向けた。
裕也は桜木からの視線に頷いて応えると、口を開いた。
「小さい頃の思い出を共有して二人だけ世界を作り出し、他人にそれをからかわれるという、巷に溢れ返っている程にベタな展開だな」
「……裕也、とても為になる素敵な解説をありがとう。次から二人にからかわれないように気をつけるよ……」
周りを気にせずに昔話に花を咲かせていた事に俺は今更気がついて恥ずかしくなりながらも裕也になんとか言葉を返した。
「……俊樹君の馬鹿」
隣で俺達のやり取りを顔を赤くして見ていた佳奈がそう呟き、俺は申し訳なく思うのだった。
「後、私は原宿に行きたいな」
俺と佳奈が落ち着きを取り戻した後、話は再び校外学習のルート選びに戻っていた。
「原宿なら上野からもそんなに遠く無いから良いんじゃないか?」
桜木の提案を聞いて、スマートフォンを弄っていた裕也が顔を上げて賛同をした。
「俊樹君と間宮君は、何処か行きたい場所はある?」
「俺は特に行きたい場所は無いかな。それに、その二箇所に行けば丁度良い時間だと思うし、時間が余ったら、東京駅をブラブラすれば良いだろう」
俺の言葉に裕也が頷く。
「俺も俊樹の意見に賛成だな。二人はどうだ?」
「私は大丈夫だよ」
「私も」
佳奈と桜木の言葉に裕也は頷くと、「そうしたら、プリントに記入をして、提出しておくよ」と、言ってプリントに記入をして武井先生に提出をしてくれた。
やがて、他の班も武井先生に提出し終えると、武井先生は辺りを見回した後、口を開いた。
「提出し終えたな。校外学習を楽しみするのは構わないが、その前に中間テストがあるから、あまり浮かれ過ぎるなよ」
最後に武井先生がそう言って、本日の授業が全て終わった。
俺は武井先生の話を聞いて、そろそろ中間テストの勉強をし始めないとな、と思いながら帰宅する為に佳奈の元に向かうのだった。
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