屋上の戦い
四人で屋上に行くと、ベンチが空いていた。
「お、空いているな」
「本当だ。私達の運が良かったのかな」
そう言って、桜木は裕也に言葉をかえした。
裕也はベンチの方に向かってそのまま座ったので、俺もその隣に座った。
俺と裕也が座ったのを見て、佳奈と桜木は揃って向かい側のベンチに腰を下ろした。
四人で手を合わせ、「頂きます」と、言って食事を開始した。
「ねぇねぇ、長谷川」
食事が始まってすぐ桜木がニヤニヤしながら俺に話しかけてきた。
俺は桜木のその表情に嫌な予感を感じながらも、「どうした、桜木」と、言葉を返した。
「佳奈とは最近どうなの?」
桜木のその言葉を聞いて、俺は昨晩の佳奈に抱き付かれたりした場面を思い出してしまい、動揺が表情に出ないように必死になって堪えた。
「ちょっと文香」
「俺も気になってたんだ。俊樹は昨日、相澤と何かしてお楽しみだったみたいだからな」
「えっ!? そんなに急に進展したの!?」
佳奈が桜木を止めようとするが、裕也が余計な言葉を被せ、話題が止まりそうになくなってしまった。
「裕也が勝手に言っているだけだよ。俺は何も言ってない」
「でも、昨日何かはあったんだろう?」
俺は裕也の言葉をはっきりと否定したが、裕也がさらに言葉を被せてきた。
すると、俺と裕也のやり取りを見ていた桜木が勢い良く口を開いた。
「佳奈が教えてくれなかったから、すごく気になっていたんだよ。教えて、教えて!」
桜木の言葉で、何故今日、屋上でお昼ご飯を食べよう、と誘われたのか、理由がはっきりと分かった。
「成程、昨日の夜、何があったか知りたくて、俺達に昼ご飯を一緒に食べようって誘って来たんだな?」
「あちゃー、バレちゃった? でも、今、さらっと、『昨日の夜』って、言ったよね? 夜に何かあったの!?」
「やっぱり、ゆうべはお楽しみでしたね、だったのか!?」
桜木を追い詰めたつもりが、逆にさらに追い詰められてしまった。
墓穴を掘らないと誓った後に、これでは、自分の迂闊さが嫌になってくる。
俺はこれ以上、何か言っても自分の首を絞めてしまうだけだ、と感じ黙り込む事に決めた。
「ねぇねぇ、佳奈、昨日の夜に何があったの? 教えてよ〜」
僕がこれ以上、口を開かないと判断するなり、桜木は標的を佳奈に変えたようだ。
佳奈を助けたいところだが、今の俺が口を開いても墓穴を掘ってしまうだけだろう。
俺は心の中で、佳奈に、すまない、と謝った。
しばらく黙っていた佳奈だが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……それは、私と俊樹君の秘密だから教えない!」
佳奈は顔を真っ赤にさせてそう言うと、プイッとそっぽを向いた。
佳奈にそう言われた桜木はしばらくポカンとした後に、「か、可愛い〜! ごめんね、佳奈。しつこく聞き過ぎちゃったね。許して〜!」と、言って、弁当を置いてから、佳奈に抱き付くと、佳奈の頭を、「よしよし」と、言いながら撫で始めた。
どうやら佳奈のお陰で助かったみたいだ、後でお礼を言わないといけない、と思っていると、横から裕也に、「相澤に救われたな」と、小声で言われた。
俺は、裕也も色々言っていただろう、と思い、「そう思うなら、色々言わずに助けてくれよ」と、言葉を返すのだった。
その後、話題は俺と佳奈の事から、再来週にある校外学習の話になっていた。
「そう言えば、確かこの後のロングホームルームで、校外学習の班を決まるって話だったよね。私と佳奈は一緒の班にする予定だけど、長谷川と間宮はどうする予定なの?」
「そう言えば、決めていなかったな。確か班の人数は四人だよな?」
裕也の問いに桜木は頷いて、口を開いた。
「そうだよ。まだ、考えていないならさ。私達四人で班を組まない? 佳奈も良いよね?」
桜木の言葉に佳奈は、「俊樹君と間宮君が良いなら、組みたいな」と、答えた。
「だってよ。どうする? 俊樹」
普段あまり関わりがない人より、佳奈や桜木と一緒の方が楽しいだろうと思った俺は、「知っている仲の方が楽しいだろうし、この四人で班を組もうか」と、答えた。
僕の言葉に、「ありがとう、俊樹君」と、言った佳奈の笑顔を見て、俺は校外学習が楽しみになるのであった。
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