ゆうべはお楽しみでしたね
「俊樹君、おはよう」
「佳奈、お、おはよう」
佳奈と公園でシュークリームを食べた次の日の朝、俺と佳奈はマンションの入り口で待ち合わせてから学校に向かっていた。
昨日は佳奈に抱き付かれた時の、豊かな胸や滑らかな肌等の感触が蘇って、悶々としてしまい、中々寝付ける事が出来なかった、
今も佳奈と顔を合わせると、緊張してしまい、前はどの様に話していたかが、分からなくなってしまっていた。
佳奈相手に緊張など感じた事なんて無かったのに、一体どうしたんだろうか、と考えながら歩いていると、佳奈がジッとこちらを見ている事に気が付いた。
「……佳奈、どうかしたか?」
俺はなんとか緊張を押さえ込みながら、言葉を絞り出した。
「俊樹君、なんか今日、疲れてる? ……あれ?」
そう言うと佳奈は急に俺の顔を覗き込んだ。
佳奈の顔が少しバランスを崩したら触れてしまいそうな程に近くにあって、俺は、「うわっ」と、言って思わず飛び退いていた。
佳奈が、「俊樹君、驚き過ぎ」と、言って笑っている間に急いで気持ちを落ち着けると、「……いや、急に顔を覗き込まれたら、誰だって驚くだろ」と、俺はなんとか言葉を返した。
「だって、俊樹君、目の下に隈があったよ? 寝不足なの?」
佳奈の事を考えて悶々としていたからなんて、答えられる訳がない。
そう思った俺は、佳奈からの質問に、「まぁ、なんだか眠れなくてな」と、佳奈から視線を逸らしながら曖昧にして誤魔化した。
そんな俺の態度に佳奈は何かを感じ取ったのか、ふーん」と、言うと俺が離れた分の距離を詰めてきた。
なんでさらに近づいてくるのだ、と身を固くすると、佳奈が顔を赤く染めて恥ずかしそうに髪を弄りながら口を開いた。
「も、もしかして、私の事を考えていて、昨日の夜、寝られなかった?」
俺は佳奈に見事に言い当てられ、「あ、いや、その……」と、ほぼ当たりだと言っているような態度を取ってしまった。
妹だと思っている存在の事を考えていて、夜、寝られなかったなんて恥ずかし過ぎる。
佳奈はどう思っているのだろう、と佳奈の次の言葉に身構えていた俺だが、いつまでも経っても佳奈の声が聞こえて来ない。
不思議に思い、恐る恐る佳奈に視線を向けた。
「嬉しいけど、恥ずかし過ぎる……!」
佳奈は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに両手で顔を隠しながらそう呟いていた。
そんな佳奈を見て俺まで恥ずかしくなり、その後は、俺と佳奈は会話する事無く、二人で顔を真っ赤にしながら学校へ向かうのだった。
ようやく学校に着き、同じクラスの佳奈とは教室の入り口で別れ、俺は自分の机に向かった。
「朝からお疲れだな」
朝からとても疲れた、と思い、一息ついていると、聞き慣れた声がした。
横を見ると、俺の友人である、間宮裕也が立っていた。
「ん、まぁな」
俺は話す気力が無く、適当に言葉を返した。
そんな俺の態度に裕也は嫌がる素振りを見せず、ニヤッと笑うと再び口を開いた。
「それともこう言った方が良いか? ゆうべはお楽しみでしたね?」
佳奈の事を考えていた時に裕也にそのような事を言われ、思わず佳奈の胸の感触を思い出してしまった。
俺はその思考を振り払うように慌てて、「それはしてない!」と、言葉を返すと、裕也は、「成程」と、言って何か納得した感じで頷いた。
裕也がニヤニヤと笑いながらこちらを見ていたので、俺は、「なんだよ」と、短く聞いた。
「いや、俊樹が、『それは』って、言うから、他の事はしたんだなって思ってな。それで結局、昨日は何をしたんだ?」
俺は失言を裕也に指摘されて、自分の迂闊さに恥ずかしくなった。
「……だいたいなんで、佳奈の名前が出てくるんだよ」
俺の言葉に裕也は目を大きくして驚いた。
「俊樹、本気で言っているのか? あんなに毎日一緒に登下校したりして、仲良さそうにしていたら、誰だってそう思うぞ?」
「いや、何度も言ってるけど、可奈は妹みたいな存在だから、そんな事はしないって」
俺はこの話題を続けていると、また墓穴を掘りそうだと思い、話を打ち切る為にハッキリと言葉にした。
「俊樹がこんなんじゃ、相澤も大変だな」
裕也はそう言うと、やれやれといった感じで首を横に振りながら、肩をすくめるのだった。
そんな裕也を見て、裕也にこれ以上からかわれない様にする為に、今日はこれ以上、佳奈の事を考えないようにしよう、と俺は思ったのだった。
しかし、そんな俺の決意はすぐに無駄になった。
午前中の授業が終わり、昼休みになった。
俺はいつも昼食を共にしている裕也の元へ行き、近くから椅子を引っ張ってきて弁当を広げようとした時だった。
「ねぇ、俊樹君、少し良い?」
声のした方を見ると、佳奈と佳奈の友人である桜木文香の二人が俺の側に立っていた。
「佳奈、どうした?」
「その、今日は四人で屋上に行ってお昼ご飯を食べない?」
いつも佳奈とは別に食べているので、その提案に俺は驚き、裕也もいるし、どうしたものか、と俺は思った。
「たまには四人で食べるのも良いかなと思って私が提案したんだ。間宮も別に良いでしょ?」
桜木が裕也の目を見てそう言った。
裕也は少しの沈黙の後、何か察したのか、大きく頷くと、「俺は大丈夫だぞ」と、言って賛同した。
こうして、四人で昼食を共にする事が決まった。
俺は墓穴を掘らないようにしないといけないと気合いを入れながら三人に着いていくのだった。
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