過去見る夢は、猫舌に笑う。

部屋の片づけに1時間ほど。

奈々と一緒に片付けていた。


「ゴミは纏めたわ」


「おお、ラベル剥がし終わったぞ~」


「まったく……。なにもやってないじゃない……」


そう、俺は最初こそ手伝っていたが、邪魔だと奈々に言われてしまった。

最終的に誰にでも出来そうなペットボトルの回収とラベル剥がしを任されたわけ。


「これじゃあ、昔みたいに定期的に訪れないと大変なことになりそうね……」


「面目ない!」


「反省の余地が見えないわ……」


綺麗になった部屋を見渡して、満足気に頷く。

こんなにキレイになったのはいつぶりだろうか?

半年前か?一年前かもしれない!


高校のときはキレイに保ててたんだけどな~。


「もう16時なのね」


「土曜も終わっちまうな~」


「好きな人と過ごす時間って時の流れが急に加速するのは不思議よね」


「高校んときより短く感じるよな~。やっぱ人生折り返し地点は通り過ぎたんだろうな~」


「やめてよ……。まだ若く居たいわ」


成人して、仕事を始めるとどうしても時間の流れって早く感じるんよな~。

まだ21だから体力的衰えとかはないけど、先輩たちと話していると5歳刻みで衰えを自覚できるっていってるもんな~。


特に女性からしてみれば、それが1歳刻みみたいなもんなんだろう。


「さて、私はお母さまのお手伝いをしてきますね?」


「おう、怪我しないように気を付けろよ~」


部屋から出ていった奈々を見送ってからベッドに横になる。

先週の休日は寝っ転がってネット小説呼んでたっけ?

あ~、たしか急に仕事入ったんだよな~。


最近多いんだよな~、休日出勤。

まぁ別日に休みもらえるからいいんだけどね~。


「休みがあっという間なのも久々だな~」


スマホでネット小説を読み始めた。

今は待っているのはラブコメもの。

高校生の甘酸っぱい青春ラブコメ。


「あれ?俺って高校のときってどこでどうやってデートしてたっけ?」


少し過去を思い出そうと、目を瞑った。






デートっぽいことしたのってたしか付き合って2週間目だっけ?

まだお互いを意識してなかったときだ。

偽装のためにデートはしないといけないという奈々からの提案でお出かけすることになった。


んで、たしか水族館に行ったっけ?

丁度イルカショーやってたから見に行こうって話になった。


お昼前に駅前に集まってお昼食べてから行くことになった。


「高松くんはなにが食べたいですか?」


「特にこれが食べたいってものはないな~。綾瀬さんは食べたいものとかある?」


「私も特にこれといったものはありませんね。……しいて挙げるならラーメンが食べてみたいです」


「ラーメン?」


「はい。友人と街に出かけても基本的にはカフェ巡りなんですよ」


「なるほど……。なんとなく理解できた。じゃあラーメン屋行くか~」


そして、ラーメン屋に向かった。

水族館に行く前ってのもあってニンニクが入ってない店を選んだっけ。


「久々に食べました……」


「まじか。美味いか?」


「……おいしいです」


「ならよかった」


それから無言で食べて続けた。

ニンニクの入ってないラーメンは少し物足りなく感じる。

だが、一生懸命息を吹きかけ冷やしながらおいしそうに食べる綾瀬を見ていると自然と嬉しくなってくる。


「……なんで見てくるんですか」


「いや、猫舌なんだな~って思ってな」


「……熱いの苦手なんですよ」


「ぷっ!」


「笑わないでください!ほら、早く食べますよ」


「俺は食べ終わったからゆっくりでいいぞ」


5分ほど掛けて綾瀬は食べ終えた。

数分休憩して会計をしに。


「おごるぞ?」


「いえ、割り勘で大丈夫です」


「まぁ最初は奢られとけよ。デートってそういうもんだろ?」


「……じゃあお言葉に甘えますね」


会計を行い、店を出る。

駅へ戻り、2駅先にある水族館へ向かった。


水族館に着くと、家族連れとカップルばかりだった。


「カップルばかりだな……」


「そうですね」


「まぁ俺らも偽装とはいえカップルだし気にする必要ないな。チケット買いに行こうぜ」


で、チケット買いに行ったんだっけ。

だけど、チケット買ったあとが思い出せないんだよな~……。


え~っと、たしか……。







「ふげっ!?」


持ってたスマホを顔に落とした。

いつの間にか寝ていたようだし、夢だったようだ。

回想にしてはリアルだと思ったわけだ。


空いてるドアの隙間からいい匂いが漂ってくる。

晩御飯はカレーのようだ。


部屋も暗くなってるし、それなりに時間が経過したのだろう。

スマホで時間を確認すると20時になっていた。


「結構寝てたな……」


「かわいらしい寝顔でしたよ」


「ぎょぎょっ!?いつの間に?!」


「ご飯の準備ができたから呼びに来たのよ。そしたら気持ちよさそうに寝てたから数分だけ眺めてたのよ」


「起こしてくれればよかったのに」


「ふふっ。とりあえず、起きたならご飯にしましょう!今晩はカレーですよ」


奈々は立ち上がって部屋を出ていく。

俺もベッドから立ち上がり、リビングへ。


既に食卓に3人前のカレーが準備されており、母さんはお笑い番組を見て笑っていた。


「あら、起きてきたのね」


「気づいたら寝てたわ……」


「ふふ、じゃあ食べましょうか」


「「「いただきます」」」


スプーンでカレーをひと掬い。

湯気が立つルーをすこしだけ冷やし、口に運ぶ。

ぴりっとした辛さが口内に広がった。


「久々に食った~」


「ふぅふぅ……」


「相変わらず熱いのが苦手なようね~」


「え、えぇ……。熱いのは昔から苦手で……」


「火傷しないようにね~」


「は、はい!ふぅふぅ……」


一生懸命息を吹きかけ、冷ましてから食べる。

その光景が夢と重なった。


「ぷっ…!」


「なんで笑うんですか……」


「いや、夢見た光景を思い出してな」


「夢、ですか?」


「ああ、付き合って初めてのデートのな」


「あら~。その話気になるわ~」


母さんが食い気味に乱入してきた。

ニヤニヤして奈々に詰め寄る。


「初デートですか?水族館行きましたよね?」


「うん。だけど、その前に食べたラーメンをな」


「あぁ!だから笑ったんですね!」


「そういうことだ」


「どういうことなのぉ~?!」


懐かしい思い出に二人で笑いあった。

母さんは気になってソワソワしていた。




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