感動的な再開、汚部屋にて無に帰す。

電車に揺られ、歩くこと20分。

数年前、何度も二人で歩いた道。

高校時代の思い出話を時よりしながら、別れてからの2年半の話をした。

最初は奈々の大学生活について聞いた。

そしたら色々とカミングアウトされた。


「ふぅん……。ビッチだったんだ……」


「ちっ!違うっ!確かに色んな男の人と付き合ったけど……。で、でも!誰とも深い関係になってないのよ!フミくん以外に体を許してないわ!」


「ははっ!冗談だよ。まぁ奈々が他の男に抱かれてたら嫌だけど、別れ話をした俺が追及するのも筋違いだろ?」


「むすーっ!」


「なんで怒ってるんだ……?」


女心は難しい……。

嫉妬してほしかったのだろうか?

いや、でも悪いの俺だしなぁ……。


「そういうフミくんは色んな女の子と遊んでたんでしょ?!社会人になって懐にも心にも余裕あるもんね!」


「それがな~……」


別れてから半年くらいは俺だって引き摺った。

しかし、それ以上に仕事で余裕が無くなってきた。


工場の仕事だからすぐに慣れると思っていたが、配属された場所が中々過酷な環境だった。

覚えることも多かったし、やることも多かった。

そのおかげというべきか、奈々との思い出を思い出すこともなかった。


そんでもって、工場ってのは年配が多いんだわ……。

俺の配属された場所は2個上の先輩を除くと次に若いのが30代になっちゃうし。

しかも、運が悪いことで、俺の配属先は全くの女っ気0!

しかもしかも、もっと運が悪いもんで自分らの仕事が製造部門で完結してるもんだから他部署との繋がりもないんよ~……。


「ふ、ふぅん……、そっかそっか!」


「嬉しそうだな……」


「ま、まぁ!フミくんは私のような美人と付き合ってたから結構な面食いだったんでしょうけどね!」


「ぐぬっ……。否定できん……!」


食堂が社員割で安く利用できたからよくお世話になってたんだけど、たまにすれ違う他部署の女子を見ても可愛く思えなかったんだよな~。

まぁ周りがおば様方ということもあって、それなりに可愛く見える人もチラホラといたけど……。


だけど、そういうときにふと奈々の顔が浮かんでくるんよ。

そうすると急に可愛いって感情が消えるん。

少しだけセンチメンタルな気持ちになるんだけど、そんなもん仕事始まると忘れるんだわ。


「そ、そっか~!フミくんはだけが好きなんだもんね!」


「母さんのことも好きだぞ?」


「マザコン……」


「ちょ!それはひどい!」


「くすっ。冗談よ、お返し!LOVEは私だけよね?」


一歩俺の前に回り込み、背中で手を組んで上目遣いではにかんで笑みを浮かべる。

あざとい仕草にドキっとさせられたが、平然と装って横を通り抜ける。

すると、分かってたかのように俺の腕に捕まってきた。


「照れてる~」


「照れてねぇし」


「昔っから素直じゃないな~」


なんだかんだ2年付き合ってたからばれてらぁ。

あと横腹をツンツンすんのやめろ!

くすぐったいんだわ!


「なんか緊張してきたかも……」


「母さんに会うのが?」


「う、うん。久々ってのもあるけど……」


高3になって母さんを紹介してほしいと言われたので合わせたらすぐに仲良くなっていた。

週4くらいで家に来てはたまに母さんとキッチンに立ってた。

当時は親子じゃんって思うほど仲良かった。


「な、なんか買ってったほうがいいかしら?!」


「そこまでしなくても、奈々の顔見せるだけで満足するだろ。息子よりも我が子のように可愛がってたんだぞ?」


「そうだけど……。緊張するものは緊張するわ!」


と、そんな話をしていればあっという間に俺の住んでいるアパートの前である。

元々俺と母さんの二人暮らし。

父さんは俺が生まれた直後に亡くなっている。


「ちょっとだけ待っててくれっ!」


「ふぅん……。隠すもの隠すのね……?」


「隠すものじゃない!でも、散らかってるから5分待ってくれ!」


隠すほどのものはない!

シンプルに散らかっているのだ!

マジだ!


「わかったわ。5分待ったら突入するわね?」


「鍵閉めとくわ」


「残念、返しそびれた合鍵持ってるのよね~」


複数の鍵が纏まってるキーケースに見覚えしかない鍵があった。

見間違うはずもない。

俺んちの鍵である。


「なんでもってやがる?!」


「お母さまから渡されたのよ」


「あんのクソババァ!」


「だれがクソババアですって?」


俺の背後に気配無く現れた人物。

すっごく見覚えしかない。

21年間見なかった日がないくらいに見慣れた人物。


片手にはスーパーの袋を持っていた。


「母さん?!」


「懐かしい娘の顔が遠目で見えたから急いで帰ってきたら、出来損ないの息子から罵倒されるなんて思ってなかったわ~」


「お、お母さま……」


「おかえり、奈々ちゃん」


「……ただいま!」


ニコっと微笑む母さんと薄っすらと涙を溜める奈々。

久々に会った母娘のような雰囲気で抱擁する。

だからとはいえ、俺の存在を無視して二人の世界に入り込まないで?

たしかにこの感覚懐かしいけども……。


ちょっと近所の人もうるっとしてるのは何故なんだい?





さて、ちょっと感動的な場面なんだが、それ以上に説明しておかないといけないことがある。

俺は昔っから掃除が苦手きらいである。

よく母さんと奈々に怒られたが、社会人になって少し努力した。


努力しただ。


だが、言い訳をさせてほしい。

仕事が本当に忙しかったのだ。

加えて母さんと仕事の時間がすれ違うことも多くなった結果、俺はカップラーメンが主食になったと言っていい。

そして、元々片付け苦手きらいを克服できるわけもなく……。




「汚いわね……」


「汚い息子でごめんなさい……」


「いえ、お母さまは悪くありません!私も甘やかしちゃったところもあるので……」




感動的な場面で有耶無耶になった俺の掃除時間。

俺よりも家に戻るのが速足になった二人が真っ先に向かったのは俺の部屋。


汚部屋といえばいいだろうか。

テーブルの上には食べ終わったカップラーメンとおにぎりなどの包装紙など。

床には脱ぎ散らかした後。

ベッドの上はポテチの袋やエナドリの缶、ゲーム機など。


見るだけでわかるダメ人間さ。




「殺してくれ……」




だから片付ける時間が欲しかったのである。

このあと、奈々が部屋を片付けましたとさ。





~~~~~~~~~~~~~~





君たちの部屋は汚部屋かな?


作者は一応片付いてます。嘘じゃないよ?





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