闇と病み、未練は止まぬ。
「来ないわね……」
駅前のコンビニの前。
レジ袋を持ってスマホの時間を見ては周りを見渡して。
そわそわとしている私は妙に緊張していた。
「来てくれるかしら……」
何時間でも。
彼が来てくれるまで待つつもりだ。
☆
私、
待ち人来たる。
今年の新年のおみくじで引いた恋愛運。
忘れることない3年前の高校時代。
そして忘れたくても忘れられない2年半前。
見捨てられたと思った。
確かにあの時は偽装カップルでしか無かった。
しかし途中からは本気だった。
とても楽しかった。
とても嬉しかった。
でも、その関係は高校を卒業してすぐに崩れ去った。
同じ大学に行けばもっと関係を続けられると思っていた。
彼と同じ大学ならどこでもいいと思った。
でも、彼は就職を選んだ。
最初は私のために就職を選んだのかと勘違いしてした。
別れ話をされて、一方的に酷いこと言って、数日間塞ぎ込んでしまった私。
考えが纏まることなく、ポッカリと空いた心の隙間。
考えて、考えて。
何がダメだったのか考えた。
『もしかして、郁弥くんと付き合っていた私は重かった?』
彼にとって私と付き合うことが重荷になっていたのでは無いか。
私は俗に言うヤンデレみたいになっていたのではないか。
調べれば調べるほど自覚があることばっかりだった。
だけど、気づいたのは別れたあと。
時間だけが過ぎていき、大学生活が始まった。
ポッカリと空いた隙間を埋めるべく。
誰でもいいと縋って、大学で知り合った男の人と付き合ったのはよかった。
でも、私は未練タラタラで、長く続かなかった。
手を繋ぐことなく、誰とでも付き合うのに身持ちだけは堅い女になっていた。
そんなことをしていれば大学ですぐに孤立する。
楽しくなかった。
楽しみなはずだったのに。
2年半も失恋を引き摺って。
彼は私の事なんて忘れているんだろうと思いながら。
色のない大学生活を過ごしていた。
そんなある日、スマホが震える。
また私に貢ぐ男からの連絡かと思った。
見るのも億劫だったが、見ないと面倒な事になりそうだったのでスマホを手に取る。
相手は男だった。
ただし、高校時代のクラスメイトから。
内容は高三のときのメンバーで飲み会でもしないかという内容。
私は即座に参加すると連絡を入れた。
もしかしたら、郁弥くんも来てくれるかもしれないと。
出来うる限りのオシャレをして。
灰色だった世界に少しだけ色が加わった。
いざ当日になった。
タイミングが悪く、付き合っていた男からデートに誘われたが断った。
それでもしつこく誘ってきたので、別れ話を一方的に告げる。
これで心置き無く郁弥くんと話せる。
そんな気持ちを抱きながら、同窓会が始まるのを待った。
小さな居酒屋を貸切で行われる同窓会は六人のグループが四つほど。
男女が別れており、私は一番端っこに座って辺りを見渡した。
灰色の世界に色の付いている人物が視界に入る。
「郁弥くん……」
「んー?郁弥〜?あぁ!奈々ちゃんの彼氏っ!」
「そうそう!聞きたかったの!奈々ちゃん達はそろそろ結婚?!」
「っ!……もう別れてるわ」
『えっ?!』
地雷を踏まれた気がした。
今日、ヨリを戻すつもりだが、よりにもよって今その話をして欲しくはない。
だけどみんな驚いているのが当然なんだろう。
誰にも言ってないのだから。
誰にも知られたくなかったのだから。
「別れてたの……?」
「ええ、卒業してすぐに別れ話をされたわね……」
少しだけ雰囲気が暗くなる。
お酒の場とはいえ、予想だにしてないであろう話に気まずくて声が出ないのだろう。
「でも、今日は郁弥くんに声を掛けるつもり」
「そ、そっか!頑張ってね!」
「うちらも協力するから!」
「ありがとう、みんな」
そこからタイミングを見て席替えをしたりしたが、何故か郁弥くんと一緒になることが出来ず。
そもそも、郁弥くんのテーブルだけメンバーチェンジすることはなかった。
もどかしい時間が続く。
私がフリーだと知ると興味のない男ばかりが寄ってくる。
そのくせ、私に興味のないであろう男たちは郁弥くんの周りから移動しようとしない。
閉店間際になってようやく郁弥くんが席を立った。
行先はトイレっぽい。
トイレから広間までは一本道。
かつ、トイレに行く道は狭い。
チャンスだと思った。
立ち上がろうとすると、近くにいた男に声を掛けられる。
だけど、私がやろうとしていることを察したであろう他の女子がその男の気を引いてくれた。
軽く会釈だけして、
郁弥君を出待ちした。
☆
長い待ち時間。
だけども、時間はゆっくり流れていく。
駅前のコンビニかつ金曜ということもあり、飲んだっくれたサラリーマンがチラホラ見える。
その中には若い大学生くらいの人たちもいる。
辺りに見かける女性は私くらい。
大学生グループが私のほうを見ながら何やら話していた。
嫌な予感がしたのでコンビニの中へいこうとするが、声を掛けられてしまった。
「もしかして暇?」
「人待ってるので」
「なんだ、暇なんじゃん。どう?これから飲みに行かない?」
「人を待ってるって言いました」
「どうせ大人だろ?いいじゃん、俺らと遊ぼうぜ?」
「触らないで!」
1人の男が私の肩に手を置いてきた。
振り払うつもりが、逆に腕を掴まれてしまう。
抵抗すると力では勝てない。
他のサラリーマンは見て見ぬふり。
「ほら、大人しくしてりゃあ、気持ちいい思いさせてやっからよ」
「やめてっ!」
「良い女ゲットだぜ〜」
他の男たちも下卑た笑みを浮かべている。
最悪な日になってしまった。
待ち人なんて来なかった。
そりゃそうか。
だって、嫌われてるんだもの。
抵抗を諦めてしまおうかしら。
彼らの性欲の捌け口になろうかしら。
そんな暗い感情が渦巻いていた。
「お巡りさん、こっち!こっちです!」
絶望に堕ちようとしたとき、聞き慣れた声が聞こえた。
視線を声のする方へ。
「郁弥くん……」
「ごめん、遅れた!」
「ちっ!男待ちかよ!しかも、サツを連れてきやがった!」
一斉に男たちは街の中へ逃げていった。
警官の一人が彼らを追い、郁弥くんともう一人の警官が私の元へやってきた。
「大丈夫だった?」
「ちょっと怖かったわ……」
「遅れて悪かったな」
私は郁弥くんに抱きついた。
悪い女だ。
この状況も今では嬉しく感じている。
「大丈夫そうですね。僕は応援に行ってくるから気をつけるんだよ」
「ありがとうございます」
私は郁弥くんの腕の中にいる。
無意識だろうけど、私を受け入れてくれた。
暖かい。
自然と涙が溢れてきた。
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