高校時代に偽装カップルだった相手に同窓会で本物のカップルになりたい言われました
ペンネーム
同窓会と飲み会ってなにが違うん?
俺は
高校を卒業し、大学に行くことなく工場に就職した。
大学へ行こうと誘われもしたが、元々勉強が得意じゃないし、遊ぶ時間よりも自由に使えるお金が欲しかったのも就職を選んだ起因でもある。
ただ、就職先を雑に選んでしまったが故、後悔している事もある。
工場勤務とはいえ、彼女の一人くらいは出来ると高を括っていたのである。
しかし、現実は非情なり。
そもそも若い女の人が居なかった。
まわりはオッサンやオバ様方。
同期も少なく、全員が見事にバラけた工場勤務になった。
そして、今日は仕事終わりの金曜の21時。
高校時代の友人から飲みに誘われたので、たまにはと思い、参加したものの……。
「ぷはぁぁ!やっぱり彼女がいる生活はいいぞ!」
「わかるっ!俺、同棲してるけど毎日あんな事やそんなことが出来るからな!」
高3の時のクラスメイトの半分以上が参加している、言わば同窓会のような飲み会は小さい居酒屋を貸切で行われていた。
開始は19時半で、丁度1時間半くらいが経過している。
どこもかしこも酔っ払いばっかりで、俺のいるテーブルは彼女の自慢話で持ち切りである。
クソ喰らえ。
「んで、郁弥は綾瀬とどうなんよ?結婚するのか?」
「そうそう!あんなに仲睦まじかったんだから、そういう話くらいしてんだろぉ?」
酔っ払いめんどくさい。
そして、悪意のない攻撃が辛い……。
「高校卒業してすぐ別れたよ……」
『はぁ?』
元々、高校時代に彼女と言われる人は居た。
彼女は学年で一番モテていたし、その子に釣り合うように俺も努力した。
が、その関係性はお互いの利害の一致で付き合っていた偽装カップルであった。
当然、周りは仲の良いカップルにしか見えなかったようだが。
関係を良好に保つのはそれなりに大変だった。
「そもそも、奈々とは偽装カップルだったしな」
『はぁ?!』
こいつら、酔ってるのに反応がガチすぎだろ。
酔い覚ましになったか?
「え……?綾瀬はあんなにガチっぽかったのに……?」
「演技……にしては確かにガチっぽかったよな〜」
別れ際にはそれなりに言い合いになったが結局は別れた。
その場で連絡先を消して、未練も断ち切ったからその後はわからない。
「まぁ、だから俺は奈々とは関係はないし、今は独身よ」
「まじか。高校のときのお前らを憧れたやつらも多いっちゅうに、まさか偽装だったとはな〜」
「まじびっくりだわ。まぁ、とにかく嫌なこと思い出させて悪かったな」
「そこまで深刻でもねぇよ。……まぁ、でも今日は飲むかな」
「うっしゃ!すいませーん!生3つ!」
そこから23時までぶっ通しで他の奴らの話を聞きながら飲み続けた。
☆
23時になり、閉店時間のため一次会から二次会に移ろうとしていた。
次の場所はカラオケだと決まったタイミングで一旦トイレに向かう。
「漏れる〜」
駆け足でトイレへ続く廊下を行く。
トイレから戻ってきた人とすれ違い、中へ。
体内から水分だけが排出されていき、体内にアルコールだけが取り残されている気がする。
元々お酒は得意じゃないので、この感覚は嫌いだ。
だけど、みんなと飲む酒は美味しかった。
調子乗って飲み過ぎた気もするけど、明日は休みだから問題ない。
「漏れるとこだった〜」
用を足し終え、手を洗い、外へ。
すると待っていた人が扉の前に居た。
「どうぞー」
「待ってたわ、郁弥くん」
聞き覚えのある声だった。
鈴とした声。
かつてを思い出させる声。
偽装を装った声は確かに俺の名前を告げた。
視界に写る人影。
その人物像がはっきりしていく。
今だけはかなりスローモーションのようで。
今一番会いたくて、でも一番会いたくなかった人物が確かに壁にもたれかかっていた。
「奈々……」
「もう一度言うわ。待ってたわ、郁弥くん」
酔っていたのが嘘のようだ。
全てが吹っ飛んで行った。
酔いも思考も。
「話があるの。二次会の途中で抜け出せない?」
「どうして急に……」
「それはこっちの話よ。0時過ぎたら駅前のコンビニに来てちょうだい。それだけよ」
一度も視線を逸らすことなく。
付き合う前のトゲトゲしさを懐かしく感じることなく一瞬で嵐は過ぎ去って行った。
「どうして急に……」
終わることの無いなんでに思考が飲まれ、その場で棒立ちになってしまった。
そんな状態でカラオケを楽しめる訳もなく、気がつけば0時が過ぎていた。
同窓会シリーズ二弾。
見切り発車にて開始しました。
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