第5話

 翌日も八時に起きて仕事に向かう。


 学校に行かずバイトをしている不真面目大学生に「なんか痩せましたね」と言われ適当になしながら自分の頬を触ってみる。


 たしかに痩せた……かな。全体的に痩せたというより、頬が痩けたって感じだ。


 いやいや、まさかな。呪われてゲッソリしてるだなんて俺は認めないぞ。これは呪いなんかじゃない。疲れてるだけだ。


 しっかり飯を食ってしっかり睡眠を取れば、すぐに元の艶とハリを取り戻せるさ。どっちもなかったけどな。



 夜になると、俺はやはり早々に横になった。


 ここ数日、なんだかんだと熟睡はできていないからな。そろそろちゃんと寝かせてくれ。いや、俺が単に気にしすぎて眠れていないだけなんだろうけど。


 寝入るまでに五分もかからなかった。


 自分でも軽く鼾を掻いてるのがわかるくらい、身体の九割は入眠モードになっていて、あ、今日はこのまま朝まで眠れそうと思った矢先、なにかが頬に触れる感触で、俺は両目を見開く。


「……………………は?」


 え、今明らかに触れたよな。

 右向きに寝ている俺はそのままの体勢で固まったように動けない。


 これが金縛りってやつか? ……いや、多分これは霊的な現象なんかじゃない。俺が動こうとしていないからだ。ビビってるんだ。


 現在の気温は恐らく二十一℃くらいで、特別暑くも寒くないはずなのに、俺はTシャツが身体に纏わりつく気持ち悪さを感じながら、唯一自由に動かせる両目を必死にキョロキョロさせる。


 見たくはない。というか、信じたくない。この部屋に自分以外の誰かが存在するだなんて。


 しかし反対に、絶対に確認しなければならないという義務感みたいな気持ちもあって、同時に好奇心も――あったんだろう、俺はそいつの居場所を探すようにして薄暗い室内を見渡すが、全体に靄がかかったみたいに判然としなくて、次第に俺は度の強い眼鏡をかけてるみたいな感覚に陥る。


 頭がクラクラするような、吐き気を催すような。

 そんな状態が続き、俺は閉眼する。これ以上は本当に吐いてしまいそうだったから。


 ――何分間そうしていただろう。眉間に深いシワを作りながら、俺は思いっきり目を瞑ったまま、汗だくの身体をガチガチに固まらせながら時が過ぎるのをただ只管ひたすらに待っていた。


 体感で、十分……いや、二十分は経った頃、俺はそっと目を開く。


「何も……ない」


 当たり前だ。ここは俺の部屋だ。一人暮らしをしている、俺の部屋だ。

 誰もいるわけがない。――いてはならないんだから。


 シャワーを浴びる気にもならず、風邪引かないといいなとか考えながらそのまま眠りに落ちた。

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