第24話 ぴあの、ときめく

 コボルトの集落はとても小規模で、一つのコミュニティのアジトといった感じだった。もともと庭園の広場のようなところだったのだろう。真ん中に井戸があり、迷路の中で拾ったものを集めてきて小屋のようなものをいくつか建てて暮らしているようだった。通常の状態だったらとても珍しい場所なのでいろいろ見てみたくなるところだったが、今のぴあのは思考が蕩けてそれどころではない。それに当てられているヴォルナールも会話ができる状態ではなかったので、コボルトの長に話を通すのは完全に素面のパルマと、結構ムラムラしてる程度のアスティオに任せた。


「苗床状態の女の子保護した時に寝かせて置く小屋が今空だからそこ提供してくれるってよ」

「だってさ、ピアノちゃん、立てる? とりあえずそっとしておいてあげるからヴォルナールと一緒にそこで……アレよ。ね?」

「ふぁい……、ありゃりゃとぉごじゃいまひゅ……」

「すまん……、恩に着る……、ふーっ、ふーっ……くっ……」


 足の力が入らないぴあのを、息は荒いがまだ歩けるヴォルナールが抱きかかえる。熱い男の手が体に触れているだけで、ぴあのは悩ましい声をあげた。提供してもらった小屋の扉を閉めると、ヴォルナールはぴあのを下ろし、壁に寄りかからせるように立たせた。


「はーッ、はーッ、あ、ありがと……じゃいまひゅ……ヴォル、なある、ひゃ、ふんん……」


 運んでもらった礼を言おうと見上げたぴあのの涙ぐんだ上目遣いを見た瞬間、ヴォルナールの理性の糸がぷっつりと切れた。彼は彼女の言葉を最後まで聞かず、荒々しく噛みつくようにその柔らかい唇を奪った。


(ああ……ヴォルナールさん、カッコいい……優しいし……好き……♡♡)


 ヴォルナールの与える口づけは蕩けるように甘い。今までキスがこんなに甘かったことはないのだが、それはぴあのがヴォルナールに好意を抱いているから、その相手だからこそ感じる甘さなのだと彼女は思った。そしてそのまま、彼の手によりぴあのは蜜のプールに沈むような快楽に溺れていく……。


「ん……」


 いつの間にか失っていた意識の淵から目を覚ますと、ぴあのの体は重くて動かなかった。まだ眠っているヴォルナールに抱きしめられているからだと気が付くと今更ながらに赤面する。動けないので今いる部屋をちらちらと見ていると、鎖のついた首輪などが柱についてるのに気がつく。


(ここ、もしかしたら暴れる人をとりあえず繋いで置いておくみたいなところだったのかも……ひええ……怖い……ワンちゃんみたいで可愛いのに……)


 そんなことを考えていると、小さな呻き声が背後から聞こえた。ヴォルナールが目を覚ましたらしい。


「……。無理をさせてしまったようだな……。体はもう平気か……?」

「あ、ヴォルナールさん、おはようございます……。大丈夫です。あの、ヴォルナールさんもその……もう大丈夫でしょうか……」


 自分がぴあのを抱きしめていたことに気付いたヴォルナールは、腕の中の彼女を解放しながらそう声をかけて来た。自分も結構な痴態を演じてしまったことを思い出したらしく、また頭痛を我慢するような顔をしている。


「……いかんな。俺は……どうやらお前との睦みあいに……その。ハマり始めている気がする……。長命種のエルフが……恥ずかしい……」


 そんなふうに自嘲しているので、ぴあのは「呪いが解けるまでの辛抱ですから……」と慰める。するとヴォルナールはぴあのから顔を背け、耳を赤くしたまま小さな声で呟いた。


「……呪いが解けてもしたい」


 それを聞いたぴあのは、その言葉を発したヴォルナールに対して猛烈な可愛げとでもいうようなものを感じて、胸がぎゅうっとときめくのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る