第3話『4等級飯』
仕事で嫌なことがあった。上司がとんでもない、具体的には言えないがクビ一つ二つじゃすまされないレベルのミスをしたのだが、それをお前らの責任だと言い始めたのだ。しかもわざわざ社長に直談判までしに行った。
幸いなことに部下の一人が上司のパワハラやらセクハラを録音しており、かぶせる形で上に提出して何とかはなったが……。アレが無ければ面倒なことになっていたのは確実だろう。彼には感謝したい。
結果的に我々には休みが与えられた。二日間だ。上司は今頃オホーツクの海の上との事だ。急な休みに困惑したが、そういえばあの世界はどうなっているのだろうと気になり行ってみることにした。
相変わらず物置のドアは放置されたままだった。扉を開け中に入ると、やはり相変わらずそこは同じような世界だった。
「夢じゃなかったんだなぁ……」
しみじみとしていると、ニニ君がやってきた。手にはリストバンドを持っている。
「あっオッサン!ちょうどよかった。こっちの世界じゃ身分証明書的なのは機械で作られてんだけどオッサンまだこっちの世界に来る気ないでしょ?」
「え?まぁそうだが……」
「そこで!マザーと直談判して作ってもらったんだ!この……4等級市民証明を!」
どうやらこのリストバンドが私が4等級であると示す物らしい。腕に付けてみると腕時計のようにスッポリとハマった。すぐに取れるので着脱も自由である。
「少なくともそれさえあれば問題はねぇからよ。んじゃ俺新しいメシ考えるのに忙しいからまたなー!」
何とも忙しない奴だ。……私もか。
自虐風に軽い笑みを浮かべると、気になるところへ向かってみることにした。町を見れば4等級の人間?がほとんどらしく、何気にニニやニサのような3等級はそれなりである事が分かった。
とりあえず適当な建物に入ってみたが、どうやら機械化している者たちのショッピングセンターのようなところらしく、所々に自身の機械と接続させて商品を見ている者がいた。
私は機械ではないのでブラブラと歩いていた。面白いかと言われると……面白い。やはりこちらの世界では見たことがないような品物ばかりで、気にはなるが金はどうなっているのだろうかとか、そもそも持って行っていいものかと言うのを気にすると手は出ない。
そんなことを考えていると、腹が減り始めた。そういえば上司との事があってから、丸半日も何も食べていないのだ。さてどうするかと考えていると、このショッピングセンターにも飯屋があるらしいのでそちらへ向かう。
『特殊4等級市民デスネ。代金ハ2231番様カラ引キ出サレマス』
どうやらニニ君のおごり……と言うか、勝手に彼の口座を使ってしまったらしい。今度彼のもとに食事でも持っていくかと考えつつも、食事を受け取る。
「おぉ……」
出された食事はほぼペーストのみの食事だった。考えてみれば3等級の時点でほぼペーストだったのだ、となればそれ以下の場合は間違いなくペーストオンリーだろう。
しかし味がいいのは知っているので、ひとまず確認してみることにした。
今回の食事……確か『4等級Aランチ』だったはず。まず目につくのは赤と緑、そして黄色のペーストだろう。その上の場所には合成HOHと錠剤、それとパンらしき物が付いていた。
「これはいったい……」
パンらしき物をかじってみると、黒パンと言う感じの印象を受ける。固く、味はなくそのくせ口の中に残り続ける……。これはいかんとペーストに手を出す。まずは味がわかっている緑ペーストから。
「うん、野菜ジュース味だ」
相変わらずの野菜ジュース味である。特に言う事はない……が、しいて言うなら少々苦みは強いか。とは言え我慢できる程度である。
お次に赤ペーストに手を付けてみる。匂いはほのかにハムみを感じる。少し舐めてみると、なんと言うかペーストにされたハム味であった。
「レバーペーストみたいな物かな?」
パンに塗り、齧るとそれなりにパンはマシになった。残さず食べろと言われているので、これは幸いと半分齧りお次に黄色ペーストを食べてみる。
「ふむ……なんだこれは?」
何とも言えぬ味だった。強いて言うとすれば……カボチャサラダ?のような味だ。自然な甘さとペースト加減が何とも言えないが美味しい。少なくとも緑よりは美味しい。その分少ないのでバランスを取っているのだろう。
「そういえば合成HOHってなんなんだ……」
水だろう?そう思いながら飲んでみて分かった。以前の完全HOHはいわば天然水……とまではいわないが、ペットボトルに入った水のような物。こちらは質の悪い水道水のような味をしている。
飲めないわけではないが、……まぁ、うん。
「錠剤も3に比べると多いな」
恐らくこの錠剤が栄養剤であり、それが多いと言う事は食す楽しみも減ると言う事。5等級まであると聞いたが、いったいどんな食事をしているのだ……と恐ろしくなった。
「とはいえ、ごちそうさまでした」
プレートに乗せられたすべてを平らげ、再び当てのないぶらぶらを再開する。次はどんなところに行ってみようかと……そう思いながらただ歩くだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます