第2話『故郷の味、ラーメンもどき』


「おーい食品部門担当の2231を呼んでほしいんだけど」


『カシコマリマシタ。2231番デスネ』


「しっかしそいつも変な奴でな……俺ら機械だってのによ、『メシの向上は社会の向上なのだよ!』って言いだしてよそいつ……大丈夫かオッサン?」


「い、いや。慣れていないだけで……」


 私は今、空を飛んでいる。……正確に言えば空を飛ぶ車?のようなものに乗っているのだ。どちらかと言えば自由に動き回れるエレベーターのようなものだろうか。

 これに行きたい座標を指定する事で、その場所に行くことが出来る乗り物らしい。ニサ君曰く『俺は『上3等級市民の2級警官』だからな、マザーとか1級の奴のところに行くのは無理だけどそれ以下ならいつでもいけるんだ』とのことだ。


「よっと、着いたぜオッサン」


「ここが食品部門……?」


 そこには、日本と変わらぬような食品工場があった。なぜこんなところに……と思っているとニサ君はズカズカと工場内に入っていく。私も後ろを歩いていると、例の日本人と出会うことが出来た。


「……おぉ!?オレ以外にも日本人がいるんだなぁ?!」


「あー……キミが日本人の?」


「そうだな!ま、今は2231番って事になってるけどな!」


 2231……ニニ君と呼ぶことにした。ニニ君はこちらの世界に来てから、食品部門長として働き始めたというのだ。マザーなる人物?に右腕を改造され、現在では帰ることは出来ないとのこと。


「じゃオレやっぱり行方不明になってる感じ?」


「そうだね。……特に君の部屋は警察も寄り付かないほどらしいよ」


「そりゃそうか!あれから五十年だもんな!」


「ごじゅ……」


「っとそうだ。オッサン飯食ってけよ、最近故郷の味を作っていいことになったんだよ!」


 そう言って彼が持ってきたのは、なんとラーメンであった。熱々で湯気が立ち上り、匂いを嗅いでみれば脳を目覚めさせるようなあの醤油の香り。そして何よりも先ほど飯を食べたというのに、腹が減り始める見た目。


「た、食べてもいいのか?」


「もちろん!どっちかって言うと味見ッて感じだけどな!」


 こちらの世界で作られるラーメンの味。果たしてどんなものかとハシとレンゲをもらいさっそくスープからいただいてみた。


「ふむ……かなり薄味だな」


「そりゃな。こっちだと生の食材は貴重品。一等級共が主に食うものだからな」


 彼はこれを3等級以下の市民でも食べられるようにと、使って構わない食材のみで作り上げたのだという。

 スープの味はやや薄めの醤油ラーメン……と言ったところだろう。若者には不評かもしれないが、私からすればこのくらいの方が啜りやすい。


「具はメンマ?と……なんだこれ」


「メンマはタケノコ無いんで代用として食用木材に味を付けた奴だ。そっちは代用チャーシュー。……食べて大丈夫だからな?」


 そういわれても見た目はやはり悪いチャーシューである。しかし、味は確かにチャーシューに近い。よくスーパーなどで安く売られている物があるだろう、あれを更にパサパサにした物のような味だ。


 メンマは話を聞いて大丈夫なのかと思ったが、食べてみれば案外おいしかった。よほど煮られているのか木と判断することは出来ないだろう。

 そして麺。今までの物は全てありよりのアリと言う感じだったが、麺の出来が悪ければすべてが台無し。意を決し啜る。


「ん!」


 旨い。やや薄味のスープに良く絡むように細く縮れた麺は、噛むことを忘れ飲み込むことが出来るほどおいしい。これはいかんと二口目を啜り、今度は噛みしめる。

 口の中に広がるのはスープの味と、やや濃い小麦の味。考えてみればクラッカーは普通にクラッカーだったのだ、小麦はありふれている食材なのだろう。


「肉とかは高級だけど野菜系は滅茶苦茶安いからな。育ちやすくて安価に買えて、しかも小麦はその中でも使いやすいと来たら……作るしかないだろ?」


「確かに美味しいけど……大丈夫なのかい?主にお金とか」


「その辺はご心配なく!配給は基本的に給料から支払われてるが、コイツは嗜好品みたいなもんさ、食いたきゃ自分で金払えって奴。だがなるべく安価に作ったからな……精々一時間くらいの給料で買えるさ」


「おぉ」


 スープまで完飲したところで、ニニ君から出口を教えてもらった。彼はもう帰れないが、私はマザーにも出会っていないから帰れるとのことだ。


「なぁオッサン、たまに食いに来てくれよ、俺らの飯」


「まぁ……仕事が忙しくない時にな」


「じゃあなオッサン!元気でなー!」


 そしてドアをくぐると……私はアパートの物置の前に立っていた。アレは夢だったのだろうか?と思うが舌に残るあのペーストの味が、それが夢ではないことを物語っていた。


「……また行ってみるか。今度は休みの日にゆっくりと……」


 寝る時間はなかったが、有意義な時間だったことは間違いない。私はそう思いながら会社へと向かうのであった……。

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