第21話

101話 崇められる者

・街人「うわぁぁぁ!!!!」

・街人「なんだっ!なんだっ!」

・街人「離れろー!!危険だー!!!」

城下町は大混乱を招いていた。

・アマリリス「くっ!大丈夫だ!俺が絶対に守るから。」

アマリリスは頭から血を流しながらリコリスを抱き寄せた。

・リコリス「兄様!!兄様!!私っ、私っ違うの。」

・アマリリス「分かってる。兄様を助けてくれてありがとな。」

そこに騒ぎに気づいた激情薔薇団オーズローズスがやってきた。

・ウラノス「なっ、なんだこの騒ぎは……燃えている。いったい何故、火が……」

・ウラノス「!!!!」

ウラノスはアマリリスとリコリスに気づく。

・ウラノス「アマリリス様!リコリス様!」

ウラノスは二人に駆け寄る。

・ウラノス「ご無事ですか?」

リコリスは泣いている。

・リコリス「うっ、うっ、私がっ、私がっ、」

・ウラノス「(まさかこれをリコリス様が?)」

・ウラノス「櫓の周りの物を全てどけろ!!!決して火には触るなよ!!!」

ウラノスは部下に指示を出した。

ブルームは知らなかった。火を鎮火させる方法を。

櫓は消えるまで燃え続け、祭りは中止となった。

翌日。

赤花の城砦フォート リリーの前は大勢民衆が集まっていた。

その理由は以外にも祭りの事件への言及ではなく、リコリスを讃えるものだった。崇める者さえもいた。

・街人「リコリス様!!!!リコリス様!!!」

・街人「嗚呼、リコリス様。貴方様はきっと太陽神の生まれ変わりである!!!」

・街人「リコリス様!我々に光を!!我々に導きを!!」

リコリスは自室のベットにうずくまっていた。

そこにネリネとジュシャが入ってきた。

リコリスは泣きながらネリネに抱きつく。

リコリスは事の重大さに気づいてしまったのだ。自分は特別で周りとは違うのだと。

ネリネはリコリスの頭を撫でながら言った。

・ネリネ「大丈夫よ、リコリス。リコリスはリコリスなのだから。」

ジュシャも優しく言った。

・ジュシャ「街の皆の前に出られるか?起きてしまったことはしょうがない。これからは危険と常に隣合わせになってくる。これが王族としての責務だ。遅かれ早かれこうなっていただろう。すまない。私達が必ず守るから。」

・リコリス「お父様!!お母様!!」

数時間後。

・ウラノス「リコリス様こちらです。」

激情薔薇団オーズローズスの警備に囲まれながらドレスに身を包んだリコリスが民衆の前に姿を現す。

お披露目である。

・街人「うぉおおおおおお!!!!」

・街人「リコリス様!!!!」

街人達は熱狂していた。誰もが恐れおののくあの「火」を克服した者の姿に。

3日後。

アマリリスは一人城の隅でうずくまっていた。

それを心配そう柱の陰からアリシアが見ていた。

・アマリリス「!」

それにアマリリスが気づいた。

アリシアは恐る恐るアマリリスに近寄った。

・アリシア「アマリリス、大丈夫?」

・アマリリス「うん。」

アマリリスは落ち込んでいた。あの一件以来リコリスはたくさんの悪事を働く者たちから狙われていたのだった。表、つまり世間では知られていないが裏では毎日のように暗躍する者がいた。そしてリコリスの周りには常に警備兵がついている状態となっていた。

アリシアはアマリリスの横に座りアマリリスの手をそっと握った。

・アマリリス「嘘……」

アマリリスは話し始めた。

・アマリリス「本当は後悔してる。リコリスを守ってあげることが出来なかった。俺のせいで……俺が弱いから。」

・アリシア「そんな事ない。アマリリスは強いよ。」

アリシアはそれを否定した。

・アリシア「ねぇアマリリス、覚えてる?小さい頃山で遊んでいる時に私が野犬に襲われそうになって、それをアマリリスが助けてくれた事。」

・アマリリス「そうだっけ……」

・アリシア「アマリリスが覚えてなくても私は覚えてる!!その時から私はアマリリスのことを……す…」

・アマリリス「??」

・アリシア「……アマリリスのことをヒーローだと思ってるわ!!だから落ち込まないで。落ち込んでるなんてアマリリスらしくないわ!これからリコリスちゃんを守ってあげればいいじゃない!!あの時私を守ってくれたみたいに!!」

・アマリリス「……ありがとう、アリシア。」

アマリリスの顔に少しだけ元気が戻ったような気がした。

一方その頃。

・ウラノス「なぜだ!!なぜ分かってくれない!!ジュシャ!!」

ジュシャとウラノスが言い争いをしていた。


102話 クラスタ家とローズ家

コンコンッ。

扉のノックがなる。

・ウラノス「私だ。ウラノスだ。入るぞ。」

・ジュシャ「ウラノスか、どうした?」

ジュシャは疲れきった顔で聞いた。

ジュシャとウラノスは昔からの仲だった。クラスタ家とローズ家は血縁関係に有るいわゆる親戚だった。二人は王族で有りクラスタ家に王位がローズ家はそれをサポートする役目であった。しかし二人はそんな事関係ないと昔から切磋琢磨し合い対等な関係を築いてきたのであった。

・ウラノス「リコリス様の件だ。」

・ジュシャ「まぁ、そうだろうな。」

・ウラノス「今回の襲撃で8回目だ。お披露目からまだ三日と経ってないのに。」

・ジュシャ「こんな言葉で済ませたくはないが仕方ないと思ってる。なんせ500年だからな。500年間火を克服した者などいなかった。そら悪党だって躍起になる。」

・ウラノス「おい!それが娘に対する態度か!」

・ジュシャ「落ち着け。簡潔に話をしているだけだろ。お前と私の仲だ、もうそんな事言わなくても分かるだろ。私がどれだけ我が子達を愛しているか。」

・ウラノス「そっ、そうだな。すまなかった。」

・ジュシャ「それで、話とはなんだ?」

・ウラノス「……このままでは国家が危うい。国内ですらもうこの現状だ。一月もしないうちに国外にもこの事実は知れ渡るだろう。そうなってしまってはもう遅い。」

・ジュシャ「……」

・ウラノス「そこでだ。リコリス様の協力のもと火を克服できる者を増やして、圧倒的な力で他の追随を許さないようにする。」

・ジュシャ「そんなこと出来るわけないだろう。」

・ウラノス「…………」

・ジュシャ「できるのか?」

・ウラノス「ああ、確定ではないが。」

・ジュシャ「いったいどうやって?」

・ウラノス「私の妻。アーデルハイトの色技接木キメラならおそらく可能であろう。」

・ジュシャ「接木キメラだと!!!リコリスをそんな実験動物みたにできる分けないだろ!!!」

接木キメラ】アーデルハイトの色技。他人の色技を自分もしくは第三者に植え付ける能力。色技を受け取る者を台木ストック渡す者を継穂ルートと呼ぶ。今回は継穂ルートがリコリスで台木ストックにリコリスの色素を植え付けるというもの。根の代償により台木ストック継穂ルートとの相性が合わなければ拒絶反応を起こすことがある。

・ウラノス「それこそ仕方ないだろ!!もうこうするしかないんだ!!このままこの問題を放置し続けると戦争に発展する。これを阻止するためには力の制御と牽制がいる!!私は激情薔薇団オーズローズスを立ち上げた時から何をしてでも国家を守ると誓った!!分かってくれ、ジュシャ!!」

・ジュシャ「もういい!!出ていけ!!」

ジャジャはウラノスを部屋の外に追い出した。

ドンドンドンッ!!!

ウラノスは扉を叩きながら

・ウラノス「ジュシャ!!これしかないんだ!!もうこれしか!!」

しかしジャジャの返事はない。

ウラノスは仕方なく帰ってゆく。

・ウラノス「(すまない、ジュシャ。)」

この時だった、この時からウラノスはある計画のために動きだした。


103話 計画

キンッ!キンッ!

ウラノスとライトの剣が交わる。

・ウラノス「今日の稽古はここまでた。ライト、お前に大事な話がある。」

・ライト「大事な話?」

ライト当時14歳。

・ウラノス「ついてこい。」

ライトはウラノスの機密作戦会議室に連れてこられた。

・ライト「父上……?」

・ウラノス「ライト、お前も来年で15だな。お前には激情薔薇団オーズローズスに入隊してもらう。」

・ライト「もちろんです!!そのために今まで頑張って来たんですから。」

・ウラノス「お前には特別な入隊試験を実施する。」

・ライト「特別な入隊試験?」

・ウラノス「そうだ。それは最も簡単であるが最も過酷なものだ。」

・ウラノス「これを見ろ。」

ウラノスはある作戦の計画書をライトに渡した。

ライトは計画書に目を通す。

・ライト「こっ、これは……」

ライトは唖然としていた。

・ウラノス「この計画の実行は私達が行う。お前はそれをただ受け入れるだけでいい。」

・ウラノス「お前に国家を守る覚悟はあるか?」

・ライト「はっ!!!!!!!」

ライトは勇ましく敬礼をした。強く唇を噛み締めながら。

その日の夜。

城内は慌ただしかった。敵襲である。

ジュシャ ネリネ アマリリス リコリスは玉間に避難していた。

リコリスは怯えていた。

・ネリネ「大丈夫よ、リコリス。家族が着いているわ。」

ネリネがリコリスを落ち着かせる。

すると突然玉間の扉が開きウラノスが入ってきた。

・ウラノス「…………」

・ジュシャ「ウラノス!敵襲は?」

ドタドタッ

玉間にたくさん激情薔薇団オーズローズスが入ってきた。

・ジュシャ「やはり、こうなったか。」

・ウラノス「すまない。ジュシャ。」

・ネリネ「ウラノス!どういうこと。」

・ウラノス「国家を守る為だ。」

ウラノス率いる激情薔薇団オーズローズスの裏切りであった。それはクラスタ家を殺害し王位とリコリスの力を奪うというものだった。

・ジュシャ「ネリネ、アマリリス、リコリス、下がってなさい。」

ジュシャは剣を抜いた。

・ウラノス「やれ。」

激情薔薇団オーズローズスはジュシャに大勢で襲いかかる。

ジュシャは敵を薙ぎ払っていくが、

グサッ!!!

ジュシャは後ろから剣を突き刺された。

・ジュシャ「ぐはっ!」

ジュシャは口から血を吐き出す。

刺したのはウラノスであった。

それを見ていた。ネリネとアマリリス、リコリスは言葉を失っていた。

そして、

・リコリス「いやぁああああああ!!!!!!」

リコリスの体が火で燃え上がりその火が瞬く間に、玉間を火の海と化した。

ウラノスは火をかわして後ろに退いた。

リコリスはジュシャのもとに駆け寄り、

・リコリス「お父様!!お父様!!お父様!!いや!!死なないで!!」

・ジュシャ「リコ……リス……」

ジュシャはリコリスの顔に触れる。

リコリスの顔にはジュシャの血がべっとりとついた。

アマリリスは震えていた。この何も出来ない状況に。

ネリネがアマリリスを抱き寄せる。

するとそこにアーデルハイトが大鎌を持って入ってきた。

【断罪の大鎌】それは罪人を処刑する為に使われる大鎌であった。

ウラノスはその大鎌を受け取りリコリスの元にゆっくりと歩いていく。

・ジュシャ「や……め…ろ、ウラ…ノス」

・ウラノス「リコリス様。安心してください。あなたの力は私達と共に生きていきます。」

アマリリスは足が竦んで動けない。

・アマリリス「やめろ…やめろ……やめろ……」

ネリネはリコリスを守ろうと飛び出す。

ズシャッ!!!!!!

ネリネは間に合わなかった。

ウラノスは断罪の大鎌でリコリスを切り裂いた。

・アマリリス「……………………」

 

104話 焼

リコリスの肩から腰の辺りまで大きな傷が。その傷から大量の血が流れる。

リコリスはジュシャの上に倒れる。

ネリネは絶望に打ちひしがれて固まっていた。

・アマリリス「えっ。」

・アマリリス「嘘だよね。リコリス?父様?」

・アマリリス「嘘だ、嘘だ、どうして?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?」

・アマリリス「うぁあああああああ!!!!!!!」

アマリリスはやっと体が動いた。

アマリリスはウラノスに飛びかかる。

ガシッ!

だがアマリリスは首を掴まれてそのまま宙に上げられた。

・アマリリス「ぐぅっ、」

アマリリスは首を締められる。

・ネリネ「アマリリス!!!!」

ドガッ!!

アマリリスは床に叩きつけられた。

・ウラノス「アーデルハイト。」

アーデルハイトはリコリスの元に歩いてきた。

アーデルハイトはリコリスの胸の傷に手を突っ込んだ。

・リコリス「うっ、」

・アマリリス「やめ……ろ」

リコリスはアマリリスの方を見た。

リコリスはアマリリスの目を見た。リコリスは涙を流しながら。

・リコリス「アマリ…リス……お…兄様。ごめん……な…さいです…わ、」

グシャッ。

アーデルハイトはリコリスの心臓を抜き取った。

・アマリリス「リコ……リス。」

・アーデルハイト「接木キメラ

アーデルハイトの手首の辺りから木の根のようなもの生えてきて、ウラノスの手首に刺さった。

リコリスの心臓は光出して、その光が流れるようにアーデルハイトを通してウラノスに入ってゆく。

ドクンッ!

ウラノスは心臓を抑えた。

・ウラノス「熱い、熱い、くっ!これが焼けるという感覚か……」

ウラノスは体の中が焼けるような痛みに襲われた。

・ウラノス「ゔゔゔゔゔっ」

ウラノスは痛みに耐えていた。そして、

ボワッ!!

ウラノスの体は燃え上がった。

・ウラノス「熱くない?」

ウラノスは火を克服したのであった。

・ウラノス「(今のは危なかった。一瞬死を感じた……おそらくリコリス様と同じ赤族だったから何とかなったのだろう……)」

・ネリネ「許さない、」

ボソッ。

ネリネはそう呟いた。

ウラノスとアーデルハイトの視線はネリネに。

・ネリネ「お前達は絶対に許さない!!!!!」

その言葉にネリネの王族としての気品は皆無と言って良い程だった。

フワァ。

ネリネの手のひらの上に煙が渦巻いている。その煙はどんどんと形になってゆき、彼岸花の形になった。

・ネリネ「お前らの記憶を消してやる!!!!いやそんなんじゃ物足りないわね……そうだ!!いい事思いついたわ。」

ネリネは恐ろしい顔で笑っていた。


105話 犠牲

ネリネの手のひらの煙は弾けアーデルハイトの頭に入っていった。

・アーデルハイト「いやぁああああ!!!!」

・アーデルハイト「やめて!!やめて!!やめて!!」

記憶の奴隷メモリー スレイブ】ネリネの色技。あるはずのない記憶を捏造して対象に強制的に見せる。

・ネリネ「どう?娘を殺される気分は?夫を殺される気分は!!!!!!」

・ネリネ「ふはははははははは!!!!」

ネリネの精神は壊れていた。だがそのせいでネリネの想像力に拍車がかかり恐ろしい記憶をアーデルハイトに見せていた。

・ウラノス「止めろ。」

・ネリネ「!!」

・ネリネ「止めろですって!!!!!」

ネリネはウラノスに視線を向けた。

・ネリネ「!!!!!」

ウラノスの大鎌がアマリリスの首に突きつけられていた。

ネリネは急に冷静になり色技を解いた。

・ネリネ「お願い。もう……やめて……」

ネリネは泣き崩れた。

・ネリネ「これ以上私から奪わないで。私はどうなってもいい。アマリリスだけは、アマリリスだけは助けて……」

・ウラノス「わかった。ただし条件がある。」

・ネリネ「なんでも聞くわ。」

・ウラノス「この世界中、ローズ家以外の全ての者達のクラスタ家についての記憶を消して赤族の王はローズ家だったと上書きするんだ。安心しろ。この力は支配する為には使わない。世界中のもの達が火を克服できるそんな世界を夢見ている。ジュシャには最後までこの想いを受け入れて貰えなかったのは残念だ。」

・ネリネ「分かったわ。」

ネリネの体から煙が出できてその煙は全方向に流れてゆく。ネリネは根の代償に自らの命を使っていた。

・ウラノス「これも使え。」

ウラノスは火の力をネリネに注ぎ込む。

煙はどんどん世界を包こんでゆく。

世界中の人々はその煙を不思議に思うが何かをする時間もなく煙は頭の中に入っていった。

そして世界中の記憶からクラスタ家は消えた。

ウラノスは大鎌をどけた。

・アマリリス「お母様……」

ネリネはアマリリスを強く抱きしめた。

・ネリネ「アマリリス。全て忘れなさい。そしてどこか遠くで幸せになって。」

・アマリリス「いやだ!!いやだ!!お母様!!」

ネリネの煙がアマリリスに吸い込まれてゆく。

ネリネはうっすらと残っていたリコリスの火の力を記憶に書き換えアマリリスに移した。いつかアマリリスにも火の力が目覚めることを願って。

・ネリネ「アマリリス。大好きよ。」

ネリネはアマリリスの記憶を消去した。

そのように思えた。

だがその時アマリリスにも記憶の力が目覚めアマリリスは咄嗟に自分の記憶を守った。

アマリリスの脳に薄らと煙が纏う。

これはアマリリスの脳が反射的に行ったものだった。

その反動でアマリリスは気絶した。

そしてアマリリスの色紋は黒く変色してゆく。

ウラノスは燃え上がる城内の火を奪った色技の力で消した。

赤国、海辺。

ザー。

波の音が聞こえる。

浜辺には一隻の小舟が有りそこには眠ったアマリリスの姿が。

ウラノスはその小舟を海に流した。

・ウラノス「アマリリス様。世界の犠牲になってください。」

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