雑誌特集

@MasakiYadou

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 あれはある事情から余所行きの星間宇宙船に乗り込んだ日のことだ。理由は語れないが、ある事情というのはとにかく複雑だった。これはそんな日の一幕である。


「ーーーーーーちょっといいか、ね?」

「はい?」

 ・・・・・・どうやらその時の私は事情に集中するあまりに、普段なら全く興味を持たないような、船に同乗していた一般客の日常話に敏感になっていた。

「いや。簡単な質問をしたくて、ね。いったいどうしてあなたがこの船に乗ったのかを知りたくて、ね」

「理由ですか?」

「あぁいやいや。深い意味は無いんだけど、ただ、なんとなくか、な」

 会話をしていたのは少女と青年だった。

 ・・・・・・私は無意識に少女と青年のことを二度見してしまった。理由は両者の外見だ。

 まず少女の方は体格こそ普通の子供のようだが、背中には植物の葉が翼のように生えていた。肘から手首までが茎のようになっていて、手首から先には花弁がついていた。服装も見たことのない花のがくと葉と花弁でつくられていた。 

 ・・・・・・そういえば以前、彼女のように、植物と似通った体のつくりをした異星人のことを聞いた気がする。彼女もそうなのか?

 それに青年の方も大概だ。一見、普通を装っているものの、あの耳障りな喋り方や首筋にあるパーツの合わせ目は、彼の身体が普通では無いことを物語っていた。

 おそらく彼は、どこかの星でつくられたアンドロイドなのだろう。最近は簡易生産のアンドロイドの不法投棄が社会問題となっている。彼も捨てられた一体だが、何らかの要因で処分を免れたといったところか。

「超能力者を探しに来たんです!」

「超能力者を、な・・・・・・」

「はい! この人なんですけど・・・・・・」

 植物少女は自身が読んでいた雑誌をアンドロイド青年に見せた。

 凄まじい聴力と透視能力を備え、さらに瞬間移動を使う異星人。私の力で読み取れたのはそれだけだった。

「確かに、すごい人だ、ね・・・・・・」

 ロボット青年の言う通りだ。

「やっぱりそう思いますか!」

 ・・・・・・改めて考えてみれば、あんな見た目の彼女が、異星人特集の星間雑誌を読んでいるあの状況に、疑問を抱くべきだったのかもしれない。

 いや、それ以前に突然話しかけてきた見ず知らずの青年に対して何の疑念も抱かない、彼女の純粋すぎる心もはたから見れば、かなり危ないのだが。

「・・・・・・?」

「あっあの・・・・・・もしかして何か気に障りましたか?」

「ーーーーーーいやいや。むしろ衝撃をうけさせてもらった、ね!」

「本当ですか!?」

「ああそうだ、ね。私も、この人を見たくなったか、な」

 アンドロイド青年は、星間雑誌に特集されている超能力異星人を指さしながら、語った。

 おおっとぉ・・・・・・これはまさか。

「でしたら、ぜひ一緒に探しに行きません?」

 まずい。

「探す? どういう意味だい、な」

「知らないんですか? この雑誌が発行されてから三か月、一向に見つかってないって噂で・・・・・・。

 だから、自分の手で探そうと思っていたんです! でも一人じゃ心細くって・・・・・・あなたみたいな人がいてくれたら頼もしいなって!」

「・・・・・・そうだね、行く当てもなかったし。その旅に同行させてもらおうか、な」

「本当ですか!」

 二人の会話が終わらないうちに私はこの場を離れた。

 この場であのふたりに見つかるわけにはいかない。今、捕まったらあの星間雑誌の発行元から最終的にどこか遠くまで送られるのは目に見えている。

 私はありったけの力を込めて近くの惑星をイメージし・・・・・・ひとり宇宙船を去った。

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