第15話
古今東西の文学者のうちで、ボクがいちばん傾倒したのは、いまのところ筒井康隆さんです。ハルキ、や星新一とか、太宰、三島、谷崎とかも読んだが、結局はツツイに始まって、で、終わっている感じなのが、わが読書遍歴です。
で、完読率、と今作った言葉やが、40年くらい前にかなり浩瀚な筒井康隆全集が出たことあり、その時も、95%くらいは既読だった。
その後もいろいろと出版された作品は折に触れては詠んでいて、全体的にはまあ、85%くらいだろうか。
最近は新聞や本屋と御無沙汰なので、たくさん脱落していると思います。今までに読んでみて「ハズレ」だったことがごく少ない稀有な作家で、また落穂ひろい?してみたいと思う…
もう90歳を超えていて、この間「老人ホームに入所を決意」というネットニュースが出ていた。だいぶん前に「敵」という長編が出て、かくしゃくとした生活ぶりが活写されていたが、まだまだお元気らしい。
SF御三家、についてのエッセーはこの前に書いたが、三者三様で、筒井氏の特長は、言語感覚の鋭敏さ、末梢的な感覚に訴えるとも言われる独特の文体かと思う。
星さんとか小松氏は、基本が正統的なサイエンスフィウションで、その延長で映画を作ったり、万博のテーマ委員、あるいは「ショートショートの広場」という雑誌に関与したり、そういう方面の広がりもあったが、筒井氏の「文学外への飛翔」(そういうタイトルの著書がある)した活動はかなり独特の多彩さ、多才さを如実に示している感じで、日本の古来の小説家の中でもユニークな存在感は群を抜いていたと、ファンだからそう余計に思うのかしれんが、印象ありました。
作品はひとまず置くが、人物としての筒井氏の印象は、実にさまざまに毀誉褒貶があり?無数に様々な言われ方をしてきたのを知っていて、その具体的な「表現」も記憶しています。
いわく「太宰治を髣髴する離人症」
いわく「自己哀憐的センチメンタリズム」
いわく「対象をしっかりつかんでいないがゆえの単なるドタバタ」
いわく「時代と寝る軽薄才子」
いわく「狂気の沙汰も金次第」
いわく「…
「誉褒」のほうも覚えてますけど、まあ略します。
テレヴィで観る筒井氏は、本人もよく書いていたが、「温厚で、訥弁」という印象である。「頭の回転には自信がなくて、考えているとじわじわいい考えが浮かんでくる学者型」を、自称していた。
で、ボクが、「おれに関する噂」とかを読んで、たちまち筒井ファンになったのは、たぶんただ流行っていたからというより、「日本の戦後」という特殊な時代の、だから自分がDestiny's Child であったがゆえ、と、そういう要因も大きいと思う。
「熊の木本線」という問題作は、夢で見た話かもしれないが、不思議に肯綮を穿った、黙示録的な深い意味をはらんでいたように、今読むとそんな気がする。
主人公は、「なんじょれ熊の木 かんじょ猪の木 ブッケブッタラカ ヤッケヤッタラカ」という”熊の木村”の伝承の”忌み歌”、を、何の気なしに乱痴気騒ぎの余興に歌わされて、運悪く「正確な歌詞」で歌ってしまう…正確に歌うのはタブーで、それがゆえに宴が盛り上がっていたのに?
で、その本歌が歌われてしまうと、「日本に大変な災いが起こってきた」から、その歌はタブーになってきた、という事情を後で知らされる。
… …
あたかもカフカのそれのように、一見風変わりな幻想小説にしか見えないこの短編こそが?もしかしたら筒井康隆の真骨頂かもしれないのだ。
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