第3話【ポーションマスターの世界】

「改めて礼を言うよ、ユークリフ、サリア、そして・・・・・・、ヒマリ」


 作品の中に入るとすぐに禍々しく大きな扉の前で、金髪の青年から礼を言われる。


「ここまで来れたのは君たちのおかげだ。特にヒマリ、君には心よりの感謝を」


「私?」


「ああ、謙遜する必要は無いよ。僕たち無名のギルドがSランクギルドにまで上り詰められたのは、君の『ニホン』という国で学んだ、薬学の知識とポーション錬金の才があってに他ならないからね」


「フロムの言う通りですわ。ステータス強化のポーションの用意は勿論、私たちが状態異常になれば、即座に解毒のポーションを錬金してくださり・・・・・・」


「ウム!私が二日酔いになって動けなくなった際には、酔い覚ましのポーションを頂いたこともありましたなぁ」


「はぁ・・・・・・。もっと、ユークリフさんには実生活を見直して欲しいのですけれど・・・・・・」


「おやおや、相も変わらず、サリア殿は手厳しいですな!」


「「「アハハハ!」」」



 ・・・・・・困ったことになった。まさか、メインキャラに選ばれるとは。


 モブキャラとして作品を楽しむのが好きな私にとって、メインキャラを演じることなんて論外だ。


 ここは隙を見て、静かにフェードアウトしていこう・・・・・・。


「・・・・・・なんて立ち話は終わり!この扉の向こうに魔王が居るぞ!!突撃ィィィ!!!」


 私の思考を嘲笑うかの様に、フロムは扉を勢い良く蹴破った。


「来たな、人の子よ・・・・・・。汝らが求めるのは力か、名声か・・・・・・って、話を聞けぃ!」


 フロムは会敵するや否や、魔王に切り掛かる。


「うおおお!突撃ィィィ!!って、駄目だ・・・・・・!少し痒そうにしているだけで、大したダメージが入っていない!」


「・・・・・・こうなったら!ヒマリさん!いつもの攻撃上昇ポーションをお願いします!」


「え?」


「ウム!私たちが時間を稼ぎ、ヒマリ殿が適材適所なポーションを錬金!いつもの頼みますぞ!」


「わ、分かった!(←分かってない)」


 私は地面に錬金用の釜を置き、調合用の薬草が入った袋を広げる。


「え〜と、取り敢えずコレとコレとコレを入れて・・・・・・、何コレ?まぁいいや、入れましょう」


 よく分からない草や、人語を喋る人面人参やらを適当に混ぜていると、ボンッという破裂音と共に茶色い液体が完成した。


「おお・・・・・・。この匂い、カレーだ」


 ポーションを作っていた筈が、カレーが出来上がってしまった。


「ヒマリ殿!ポーションは完成しましたかな!?」


「ちょっと待って・・・・・・!」


 折角なら、このカレーをカンペキに完成させてしまおう。仄かに香る甘ったるい匂いを消す為に、スパイシーな薬味を入れたいところ。


「よし、赤くて辛そうな薬草を全部入れてみよう」


 ボンッという破裂音と共に、茶色かったカレーが真っ赤に染まる。


「出来たよ・・・・・・!カレーが(小声)」


 三人にポーション(カレー)が出来たことを伝える。


「フハハ・・・・・・、スティール!」


「あ・・・・・・!」


 手に持っていたカレーが、釜ごと魔王の手にテレポートする。


「噂には聞いていたぞ、瞬く間に実力を高めているパーティーがあると。そして、その中心を担っているのが、天才ポーションマスターであると」


「そんな!ヒマリの作ったポーションが!」

「卑怯ですわ!」


 魔王は、私のカレーの入った釜を覗きながらニヤリと笑う。


「フフフ・・・・・・。無名のパーティーをココまで引き上げたポーション、私が飲んだらどうなるかな?」


「ムゥ・・・・・・!マズいですぞ!戦闘力を50倍に引き上げると噂される、ヒマリ殿のポーション!そんなものを魔王に飲まれては・・・・・・!」


「グフフ・・・・・・。本来、小瓶一つで充分と言われるポーションだが、吾輩レベルともなれば一釜全部いっちゃうもんね」


「やめろぉぉ!!!」


「イヒヒ・・・・・・。頂きます」


 魔王は口を大きく開けて、釜に入ったカレーを全て飲み干した。


 ・・・・・・・・・・・・


「ヒイィィィィィィ!!!!!」


 突然、魔王が口から火を吐きながら飛び上がった。


「辛い!辛い!辛い!辛い!辛いぃぃ!!」


 地面を暫くの間ジタバタした魔王は、最後に「み、水・・・・・・」と、言い残し息絶えた。

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