第四話 戦争と特訓
第四話
「ルウくん、明日のバゼルさんとの特訓のために今日はもうお休みになってください。私は仕事があるので起こしませんからね。それでは。」
マツは軽く会釈をして部屋を出ていく。ルウも手を振って返す。
「オーバーパワー!か……。」
ルウは軽く呼びかけをしてみる。すると、ルウの周りに今まで見たことのない光が大量に舞い始めた。百科事典の中のもので例えると、まさしくダイヤモンドのような光がルウの周りを自由気ままに飛び回る。ルウは驚きを隠せない。
「これって…!?オーバー粒子ってやつか!?でもなんで今見えるようになった!?」
オーバー粒子を見ることができるのはマツの『常時発動型』の能力のはずである。その能力が、ルウにも呼びかけを通じて使えている事実。能力を使える嬉しさよりも動揺と驚きが勝る。しばらくして粒子は消え去った。ルウはもう一度叫んでみる。
「オーバーパワー!」
やはり大量の光がルウの周りを飛び回る。なんなら先程よりも多い。まるで粒子が粒子を呼んでいるかのような光景である。ルウの体の中に入っていく粒子もある。ルウは考える。この状況でなら新しい技が出るのでは?インスタントオーバーパワーで使った水を放出する能力を思い出す。そして手を前に突き出して唱える。効果は切れているので、ダメ元で行うおふざけのようなものである。
「オーバーパワー!水流!」
「なーんてな」なんて言う予定だったルウの手のひらからは大量の水が放出された。
「あれ!?ダメ元でやったのになんでホントに使えんだ!?」
ルウはパニックになる。風呂と自室を繋ぐドアに水流が当たり、大きな穴を空ける。貫いた水は奥の壁に当たる。水は出続けたままだ。まさかここまで威力が出るとは!ルウはあたふた焦り出す。
「止まってくれ!もういいから!やめろ!」
水を出しっぱなしにしたシャワーのように制御が効かない腕を必死に抑える。このまま水の出し過ぎで死んでしまうのではとも考える。漠然と最悪のパターンが頭に浮かぶ。過呼吸気味になり、心臓の鼓動がどんどん高まる。目に涙が浮かんでくる。すると、部屋にバゼルが入ってきた。明らかに寝起きの顔でルウの首根っこを掴み、頭を思い切りぶん殴る。
「………うるせぇ。……眠れないから。………静かにしてて。……明日は9時からだから早く寝ろ。」
ルウの水流は収まったが、額には大きなたんこぶができてしまった。バゼルは部屋を後にする。ルウはそのまま気絶し、眠りにつく。
ルウは目覚めた。どうやらそのまま眠っていたらしいことに気づく。昨日の夜、能力が暴発したことを思い出す。自分の能力を操れないのは致命的ではないだろうか。だけど、能力を使い始めたのは最近。まだ気にすることはないかと前向きに考える。そのままぼーっと能力の扱い方について考える。しかし、ふとスマホを確認すると時刻は午前10時30分。特訓の時間を1時間半も過ぎていた。
「やべぇっ!!絶対ボコられるやつ!」
ルウはバタバタと着替えだけ済ませ、外へ出た。
バゼルが鬼の形相で待っている。
「………論外。」
「へ、へへっ、こりゃあ申し訳ねぇってやつで……。」
「……………何かも分からないくらいに切り刻んでいいか?」
「ごっ、ごごごごめんなさい!!何でもするのでどうぞご指示をっ!!」
「………じゃあ死んでくれ…」
「それ以外でお願いします〜〜!!」
普段は寡黙で表情が分かりづらいバゼルであるが、今回に関しては誰でも分かるくらいに顔がキレていた。兄貴との待ち合わせの時間にはもう一生遅れない。ルウは心の中で固く誓った。
「……腕立て1万、腹筋1万、スクワッド1万。」
「はいぃ!」
「………これお前が俺のこと上に乗せながらやれ。」
「……………ん?」
〜3時間後〜
ルウはバゼルを背中に乗せながら腕立てを行っている。筋トレしてたとはいえ限界をとうに超えている。最早流れる汗と体の痛みが心地よくなってきた。
これが『ゾーン』ってやつか。など都合の良いことを考えながら回数を数えながら腕立てを続ける。
「9999…10000…!あ”あ”!!腕立ておわっだ!!!厳しすぎます兄貴!!」
「………修行中に師匠にやられたことそのままやってるだけ。……………てかお腹すいた。お昼休憩。」
「乗ってただけだろうがっ!!」
「………遅れてきたくせに生意気。なんか適当に持ってきて。」
「はいぃ……」
自分が悪いのでNOと言えないルウ。心なしかバゼルがニヤニヤしているように見える。家の冷蔵庫から適当に栄養食を取り出して持っていった。
「これでいい?」
「…………センスないけどめんどくさいからこれでいい。」
ルウはムスッとするも、追加の注文が無いだけマシだと思い、昼食を頬張った。チマチマ昼食を食べるバゼルを見てルウはあることを思い出す。
「兄貴、修行に行ってたって言ってたけど……どんなことしてきたんだ?」
「………俺は人より幼い頃に空刃くうじんの能力が発現した。ちょうどお前が生まれた時くらいの話だ。俺は親父に能力と剣の使い方を教わっていた。」
「あれ、そのタイミングではまだ修行行ってなかったんだな。」
「………そうだ。俺が修行に行ったのは8歳の時だ。ちょうど第何次かも分からんような結晶戦争が始まった頃だな。まだ幼かった俺は修行っつう名目で戦争が終わるまで『ジャポン国』っていう剣の国でシゴかれることになった。今考えればアレは戦争が終わるまでの避難だったんだな。」
「………兄貴も大変だったんだな。俺は全然覚えてねぇや。」
「………お前は能力がまだ発現してなかったから強力な結界があるこの城の中で保護されてたんだとよ。」
「へぇ、そうなのか。なんか、どうも思い出せないな。」
「………そんで2年前に戦争が終わったっつーんで帰ってきてみたらまた戦争だ。城の軍隊長が前回の戦争で死んだから俺が今回隊長を任された。………プレッシャーなんだが……。」
「え、兄貴そんなに強いのかよ!倒せるわけねぇじゃん!」
「そらそうだ。お前に俺が倒せるわけねぇ。」
ルウはバゼルがこんなにも自分より上の存在だとは思ってもみなかった。兄弟であるにも関わらず、ここまで実力がかけ離れてしまっているとは。能力が発現しなかった自分に対する嫌悪感が増す。
「………だがルウ。昨日の夜のお前はなんだったんだ。」
「あれは……効果が切れたはずのインスタントオーバーパワーがなんか出ちゃって………」
「……アレは俺も使ったことがあるが効果はちゃんと切れる。お前、なんか持ってんだろ、変な『オーバーパワー』。」
「いや自分でも分かんねぇんだよ!もう最近戦争とか能力とか変なことばっかで訳わかんねぇんだよ……」
実際ルウの身の回りを取り巻く環境は急変した。中庭で暮らしていた期間が長いルウにとってこの怒涛の変化はほぼキャパオーバーのようなものだった。実際、シャラライトのように受け止めきれない存在も現れた。
「……それもそうか。………まぁ、無理すんなってところだな……。」
慣れない励ましの言葉をかけるバゼルはどこか恥ずかしそうにも見えた。バゼルなりの『兄らしさ』を出しているようにも見える。彼なりの優しさにルウは口元が緩む。
「……さ、続き始めるか……。」
「あ、ちょっと待ってくれ、最後に一つだけいいか?」
「………なんだ。」
「戦争って、何を争ってんだ?」
「………そのうち親父から話されると思う。俺はよく分からん。」
「………ふぅん。」
戦争に対する若干の疑問を残したまま、ルウはバゼルと共に特訓を再開しようとする。その時であった。
「何2人でくっちゃべってんですか、インスタント使ってくれてんのかと思ってましたよ。さぼんないでくださいや。」
ロボットのような見た目をした何者かが機械音を立てながら現れた。ロボットの中に本体がいると思われる。ルウが話しかける。
「あんたは……?」
「私はドグ。ここ、マルタ王国軍の科学部隊の隊長ですよ。インスタントオーバーパワーを作ったのは私です。あんた呼びすんな、感謝しなさい。」
ドグは誇らしそうに胸を張った。
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