32 双子コーデ


「おぉ! あの二人は、どこの令嬢だ?」


 夜会会場である王宮のダンスホールに入った途端、私たち二人を見た参加者たちがざわついた。


「友好国からの客人か? あの深い緑色は、友好国特有の色だよな」


 上品な深い緑色のドレスを着た双子の令嬢が入場してきたからだ。


 二人とも隣国のメガネをかけ、瞳の色を紫に変え、髪の色は、銀と黒で異なるが、双子と見間違うほど、可愛く、美しく仕上がっている。


「あの侍女のメイクの腕は、最高ですね、別人みたいに仕上がりました」


「オレも知らなかった、メイクは恐ろしい技術だ」


 私たち二人の影響で、これから、王国では双子コーデが流行るだろう。なんだか恥ずかしい。



 係員の案内で、未成年のエリアに進む。未成年は法律でアルコールを禁止されており、それを配慮したエリアである。


 ここは、いわゆる婚活の場となっている。独身の男女が交流する機会を作っているのだ。

 流行り病で子供が授かり難くなり、人口減少で悩んでいる王国の、少子化対策の一つである。


 婚約者がいる貴族も多い。家督のため、私利私欲のため、密かに、もっと条件の良い相手を探し、暗躍する者たちだ。



「そうだろ、僕のハーレム計画は、少子化対策にもなっているんだ」


 第一王子がいる。

 周りに令嬢を侍らせている。令嬢たちの思惑も知らずに、当人だけが得意気に振る舞っている……失望すべき王子だ。


「僕の聖女ハーレムは、流行り病で子供が授かり難くなった人たちに役立つんだ」


 第二王子もいる。

 こちらも周りに令嬢を侍らせている。おこぼれにあずかろうとする令嬢たちを集め、中身のない話を得意気に語っている……軽蔑すべき王子だ。



 別の人だかりの中心には、筆頭侯爵令嬢のイライザがいた。彼女は、こまめにあいさつ回りしている。

 私にはひどい仕打ちをするが、周りには良い顔をして、好感度を上げている……油断ならない令嬢だ。


 いや、男を物色しているのか? 話し相手となっている令息たちは、彼女の魅力に引き込まれている……

 二人の王子だけでは飽き足らないのか、恐ろしい令嬢だった。



 私の周りに、令嬢が集まってきた。同級生のお友達だ。


「フランソワーズ様でしょ?」


 彼女らは、私だと気が付いていた。


「学園ではサポートできずに申し訳ありません。父が筆頭侯爵様の派閥なもので……」


「私の家は、次席侯爵様の派閥なのです……でも、友情は変わっていません」


 サクラから聞いたとおりだった。それぞれの家の事情で、侯爵令嬢から転落した私と話すことが禁じられていたのだ。


「いえ、変装した私に、こうやって話してくれたことに、感謝しております」


 久しぶりに、みんなと笑って話せたことが、とても幸せだ。



 ふと、大人たちのエリアを見ると、難しい顔で話し合っている。


 なにか、王都で問題が起きてるようだ。モヤモヤとした不安が、楽しい時間を塗りつぶし始めた。



「この令嬢は、僕のハーレムに加える!」


「いや、紫の瞳を持つ令嬢は、僕のハーレムに入るべきだ」


 第一王子と第二王子が言い争いを始めた。


 あ~、サクラを取りあっているのか……ん? サクラが、かわい子ちゃんぶっている。

 これは、ワザと二人を挑発しているのか、悪趣味だが、思わず、ニヤリとしてしまった。



 あ! 第二王子が水魔法で第一王子に水をかけた。

 あちゃ〜、第一王子が水魔法で反撃した。

 この夜会では、魔法の使用は禁じられているのに!



「コノハ様が、入場いたします。ご静粛に!」


 司会進行係の筆頭侯爵の声が、会場内に響く。


「「キャー」」


 しかし、王子たちの水の掛け合いが、だんだんと大きくなり、水魔法が荒れ狂ってきた。婚活エリア、もとい未成年エリアはびしょ濡れだ。



「フラン、退散だ」


「でも、コノハ様へのご挨拶が」


「ドレスが濡れているだろ!」


 サクラが、私の腕を引き、私たちは婚活エリアから離れた。

 しかしマズい、私は、濡れたドレスで、体調が悪くなってきた。



「このクソ王子どもが!」


 元女王の怒りのイカズチ魔法が、会場に落ちた!


 参加者がシビレる……私の秘密の宝石が、イカズチの威力を吸収し、大きな被害は出なかった。

 いや、クソ王子たちだけは、気を失うほどのダメージを負っていた。



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