31 王弟殿下の寝室


「あれ、ここは?」


 目を覚ますと、ベッドの上だった。


 周りは、天蓋のカーテン……厚手のキャノピーで覆われている。天蓋は、天井に直に取り付けられている大きく高級なタイプだ。



「フランソワーズ様は、王弟殿下のことが好きなのではありませんか? 本当のことを話すべきです」


 キャノピーの外で、さっきの紫色の瞳を持つ侍女の声が……恋愛相談?


「この姿でか? フランには時機を見て話すが、今ではない」


 サクラの声も?



「サクラ様も、フランソワーズ様を愛しておられるのでしょ?」


 え! サクラは、私を愛しているの?

 侍女の一言は、私を、驚きと共に喜びで包み込んだ。


 女性同士であるが、二人の王子たちよりはマシ、いや、愛せるかも。

 でも、私にも想い人がいるし、血筋を残す使命とやらもある。


 どうしよう、サクラの愛を受け入れるべきか……



 断ろう……私は、王国と婚約するって誓ったから。


 想い人も、国と婚約して、独身を貫くと言っていた。

 それが、私と彼の愛……



「フランソワーズ様、お目覚めですか」


 紫の瞳を持つ侍女が、キャノピーが動いたことに気が付いた。


「開けますよ、体調はいかがです?」


 キャノピーを少し開け、私の具合を確かめている。

 このまま寝たふりは、さすがに不自然なので、今起きたフリをする。



「ここに、サクラ様も心配しております」


「フラン、大丈夫か、色いろと心労をかけてすまなかった」


 サクラものぞき込んできた。彼女が私に何かしたわけではない、王弟殿下の聖女ハーレムが、私の心を叩きのめしたのだから。



「ここは、どこですか?」


「王弟殿下の寝室になります」


 侍女が教えてくれた。

 なぜ、王弟殿下の寝室などに……


「フランソワーズ様は学園の廊下で体調を崩し、学園救護室に運ぶことも考えましたが、下校の時刻が近かったので、馬車で王宮まで運ばせていただきました」



「ありがとうございました。でも、なぜ王弟殿下の寝室なのですか?」


「ここなら、最上級の看護が出来ますので」


 確かに、ここなら王族レベルの看護が期待できる。

 私って、そんなに重症だったの?


「フランは、魔力が少なくなって体調を崩す『魔力失調症』でもあったからだ。今日は、ここでゆっくりと休め」


 サクラが優しく言ってくれた。


「ありがとう」


 ありがたいのと、申し訳ないのと、複雑に入り混じった気持ちだ。



「大丈夫であれば、一つ報告があります」


 侍女の話しぶりは、良い話ではないと言っているのか?


「フランソワーズ様が、ここにいることが、コノハ様に伝わったようです」


 コノハ様は、引退したものの、この王国の元女王である。私の目標としている大人の女性だ。


「そして……コノハ様から、お二人に、夜会の招待状が届きました」


 え、元女王から招待状!



「サクラ、招待される心当たりはあるの?」



「たぶん……フランは、王国の将来を左右するカギになると、女王は考えているのだろう」


「なぜフランがカギとなるのかは、分からないが……なぜ、オレも一緒なのか」


 サクラと私は、頭を抱える。招待の理由が不明なのは、とても不安だ。



「第一王子タロス様、第二王子マズルカ様も、夜会に出席されるそうです」


「「えぇ~」」


 私とサクラは、同時に嫌な顔をした。


「お二人は、双子の姉妹のようですね」


 侍女が笑った。



「私は、夜会のドレスも持っていないので、断ることは出来ないでしょうか?」


 王宮には予定外で来たし、一般寮に戻ってもドレスなんて持っていない。



「それは、大丈夫です。コノハ様から、これが届いております」


 侍女が、リボンのついた箱を二つ見せてきた。これはプレゼントだ。


 箱を開けてみると、中には夜会用の深い緑色のドレス一式が入っていた。この色は、サクラのボウタイと同じ、友好国グリーンだ。


 サクラの箱にも、同じように深い緑色のドレス一式が入っていた。


「ペアルック?」



「流行の双子コーデです、これは、侍女として腕がなります!」


 侍女が歓喜している。これでは断れない……



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