33 男物のパジャマ


「フランソワーズ様、具合が悪いようですね」


 侍女のマーキュリーさんが心配してくれた。


 私とサクラは、夜会から王弟殿下の寝室へと戻ったところだ。



「今日の夜勤はマーキュリーか。フランをベッドで休ませてくれ」


「承知しました」


 マーキュリーさんが、クリーン魔法で、濡れたドレスを乾かしてくれた。

 ドレスを脱いで、また、クリーン魔法で、体をスッキリと清潔にしてもらう。



「男物のパジャマしかありませんが、よろしいですか?」


「はい、問題ありません」


 男物のパジャマは、私にはだいぶ大きいので、袖をまくって、手足を出す。


 このパジャマには、ゴリラの刺しゅうがある。王弟殿下のものだ……なんだか、兄さまに抱きしめられたような感触だ。



「そのメガネは?」


 マーキュリーさんが、私が手放さないでいるメガネを不思議がる。


「あ、隣国のメガネで、瞳の色が紫に変わる魔道具です。気に入ったので、このまま使用します」


 私の瞳は、普段は青緑色だが、ローソク魔法の下では色が変わる。これは、侯爵家に関係する秘密事項だ。



「夜会は楽しめましたか?」


「はい、学園の友達と楽しく話せました」


 友達と話せたのは、大きな収穫だった。


 しかし、あの王子たちのせいで、元女王に挨拶ができなかった。

 元女王が、私たちを夜会に招待したということは、なにか話があったのだろうか?



「今夜は、このまま泊まって下さいね」


「いえ、明日は水曜で学園があるので、一般寮に帰りたいと思っています」


 王宮に泊まっても、学園には間に合うだろうが、侍女たちに申し訳ないから。


「フランソワーズ様には、ストレス解消の休養が必要だと思いますよ。疲れをとるマッサージをしますから、このまま泊まって下さい」


「ありがとうございます」


 マーキュリーさんの心遣いを無下にはできないので、ありがたく、このまま泊まっていくことにした。


 ベッドに横になって、マッサージを受ける。気持ちいい……疲れがとれる。


 思えば、日曜日の第一王子による婚約拒否から、ストレスのかかるトラブルが続いている……あ〜、眠くなってきた。



「オレは、トレーニング室で休むから、着替えはどこだ?」


 サクラが、キャノピーの外から尋ねてきた。


「チェストに入っています」


 マーキュリーさんが、マッサージの手を止めて、キャノピーの外に出る。



「こんな小さい下着が履けるか」


「これが可愛いのです」


 あらら、サクラとマーキュリーさんが、下着でもめている。



 キャノピーの隙間から、室内を見てみた。


 サクラが着替え中だった。大きな胸がうらやましい……下はビルダーパンツ! まるで王弟殿下だ。なぜ?


 王弟殿下のハーレムのこと、元カノへの未練、そしてサクラとおそろいのビルダーパンツ……


 目の前が、また暗くなっていく。



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