第三章 火曜

25 第一王子の聖女


「では、異世界から聖女を召喚いたします」


 隣国の魔法士が、高らかに宣言した。


 火曜日の朝一から、学園の音楽ホールに、高等部三年生が集められた。



 隣国から訪れた魔法士だという一団が、自分たちなら、異世界から聖女を召喚できると、自慢したらしい。


 それを聞いた第一王子が、すぐに召喚しろと命じたからだ。


「眠い……」


 メイドを雇えない男爵の一般寮での朝は早い……早起きしなければ、朝食に間に合わないからだ。



 学園の音楽ホールの中は、小さな窓は遮光カーテンで隠され、陽が差し込まないため、ローソク魔法の灯りだけだ。舞台の上だけ、明るく照らされている。


 私はベールを使って瞳を隠している。


 ホール内の照明が、だんだんと落とされ、暗闇に包まれた。


「フラン、これを使え」


 サクラが、なにやら手渡してきた。

 メガネのようだが、分厚いレンズ、花粉予防のサイドカバーが特徴的だ。


「魔道具の猫目ゴーグルだ、暗闇でもよく見える」


 早速、ベールを上げて、装着してみる。



 暗闇の中、召喚の舞台がよく見える。それに私の瞳も隠すことが出来る。これは、素晴らしい魔道具だ。


 サクラのほうを見ると、彼女も猫目ゴーグルを着けていた……(ΦωΦ)


 目が、猫の目になっている。申し訳ないが、これはデザインを見直すべきだ。


 あまりにも恥ずかしいので、彼女に気付かれないよう、猫目ゴーグルを外した。私は、なぜか魔道具無しでも、暗闇の中が見える体質だから。



「ご覧のように、ここには何もありません」


 魔法士が、足の長いベッドのような「台」を示した。

 その台にだけ、強い灯りが当てられ、闇に浮かび上がっている。


 後ろ側には、なぜか暗幕が張られている。



 舞台の床面に敷かれた大きな赤いジュータンには魔法陣が描かれている。この王国のような六ボウ星ではなく、五ボウ星だ。


 その中心に「台」が置かれており、黒い服を着た助手らしき数人が、その台を回し、仕掛けが無いことを見せた。


 魔法士が、台にシルクの白い布をかけた。

 みんなの視線が、白い布に注がれる。


 でも、私には、暗闇の中で数人が台の下に潜り込んだのが見えた。


「今、台の下に人が入ったぞ」


 サクラが、小声で教えてきた。まさか、マジックか?



「やおよろずのかみたちともに、きこしめせと、かしこみかしこみもうす」


 魔法士が、わかりやすい呪文を唱え、葉が付いた木の枝を、左右に振った。



「「おぉ!」」


 ホールは驚きの声に包まれた。


 あの台の上……白い布が、人が横たわる形に、盛り上がってきたからだ。


 少し小柄な体型だが、胸の部分は大きいことが、見て取れる。



「聖女様~!」


 突然、第一王子が叫び、舞台上へと飛び出し、台の上の白い布に、覆いかぶさった。


「キャー!」


 布の下から、下着姿の女性が現れ、第一王子を押し返そうと暴れた。


「異世界の聖女様は、僕の婚約者だ! ハーレムに一歩近づいたぞ」


 第一王子の乱暴な行動に、ホール中が驚き、固まってしまう。


「そのクソ王子を取り押さえろ!」


 サクラが叫んだ。



 我に返った学園の護衛兵たちが、舞台上に駆け上がる。暗幕がはがれ落ち、台が壊れ、崩れた。中には数人の、黒づくめの人影があった。


「マジックだ、ペテン師の一団も取り押さえろ!」


 サクラが叫んだ。



「続け!」


 騎士団長の声だ。なぜか騎士団がなだれ込んできた。


 学園の音楽ホールは、高等部三年生の皆を含め、混乱状態になり、パニックになった人たちが魔法を乱発し始めた。


 あちこちで、火の玉が打ち上げられ風に舞う、水が吹き出し……まずい、電撃が水を伝って……


「「うぎゃー!」」


 ホール中に電撃が走り、全員が感電した。私も……



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