24 メイド長の娘


 ルナちゃんは、機嫌をなおし、応接室から出て行った。もう下校の時刻が過ぎている。


「女手一つで育てたから、気が強い娘になってしまって、見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません」


 女手一つは関係ないと思う。気の強さは、たぶん遺伝だ。父親は誰なんだろう? 余計な詮索か……


「私は、愛する人と結ばれなかったから、フランソワーズ様には、愛する人と結ばれて欲しいと思っています」


 え、話が意外な方向にズレてきた。



「私は……王国の安定を一番に考え、恋愛を捨てて、政略結婚を選びました」


「政略結婚には、メリットとデメリットがあると思っています。例えば、国王陛下は、政略結婚にメリットを見出しましたよね」


 私は、恋愛結婚に未練はあるけど、政略結婚について、頭では理解しているつもりだ。


 国王は、貴族院の最大派閥の長である筆頭侯爵の妹を正妃とし、第二派閥の長である次席侯爵の妹を側妃として、バランスを取って、国政を安定させたのだ。



「フランソワーズ様の言うとおり、国王陛下は政略結婚を受け入れ、王弟殿下は政略結婚を拒絶しました」


 メイド長は少し考えて……え? 王弟殿下にも政略結婚の話があったんだ。


「その結果、国王陛下は愛する人と別れ、王弟殿下はフラれて今も独身です」


 え、王弟殿下はフラれたのか! 相手は誰だったのだろう? これは王族のプライベートで、私に話して良い内容ではないだろう。


「どちらが正しいのか、誰にも分からない事です」


 国王陛下が別れたという愛する令嬢も気になるが、今は、私の政略結婚をどうするかの方が優先だ。



「フランソワーズ様に、想い人は、いないのですか?」


 ひえ〜、そうきたか! 一瞬、硬直してしまった。


「あら、いらっしゃるのですね。恋愛を捨てないで、胸の中で密かに温めるのも、良いと思いますよ」


 メイド長が温かく笑う。ほんの少しの表情の変化で、気持ちの動きを読み取られてしまった。


 ◇


「それでね、国王の専属メイド長は、私の数段上を行ってたのよ」


 教室に戻ると、サクラが下校しないで待っていてくれたので、興奮気味に、応接室での出来事を話した。


 第一王子と復縁するように求められたこと、メイド長の娘のこと、国王と王弟殿下の政略結婚の話だ。



「王弟殿下って、フラれたんだ。ちょっとショック~」


 私の話に、サクラは眉間にしわを寄せ、不機嫌そうだ。


「あれ、王族の恋バナに興味ない?」


「ずいぶんと昔の話を蒸し返されてもな」


 口をへの字に曲げたサクラも、また可愛い。



「第一王子との復縁……どうしようか?」


 自分では決められそうに無いので、サクラに決めてもらう。


「オレも、覚悟を決めないとな……国王は、表向きは政略結婚だが、裏では愛を貫いたんだぜ」


 サクラが不思議なことを言い出した。


「え、どういうこと?」


 私に、表向きは政略結婚して、裏で愛を貫けと言いたいの?



「国王の専属メイド長は、国王の愛人だ。内緒だぞ」


「へ……」


 それって王国の極秘情報ですよね……私は目を大きく見開き、固まった。


「でも、娘がいるとは知らなかったな」


 サクラは、ルナちゃんの存在に驚いている。



「あれ、ということは……この王国の法律で、その子は、王女ということになるぞ!」


 サクラは、目を大きく見開き、固まった。



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