22 結納金
「タロス様、王子としての威厳というものを重んじて下さい」
教室に戻ると、筆頭侯爵令嬢のイライザが、第一王子に説教していた。
この二人、意外と相性の良いカップルだ。
「サクラ、聞いて。王子が研修生に婚約を宣言して、結納金を渡す約束をしていたの」
「また婚約か……え、結納金?」
彼女も、訳が分からないという顔をした。
この王国にも、嫁入りの支度をするための結納金というシキタリがある。
しかし、両家の間で受け渡しするお金や品物であり、婚約者たちの間で受け渡すものではない。
「これは、まさかの結婚詐欺だな」
サクラの考察に、私も賛成である。
◇
廊下の先、隣国の研修生が、誰にも見られないか後ろを確認し、王子と二人一緒に図書室へ入った。
私たちは、廊下の角に隠れ、小さなコンパクトミラーで様子を伺っている。
「図書室に入ったわ」
「よし、騎士団長は、オレの後に続け」
サクラの後ろに騎士団長が控える。
「王族用の個室は、中からカギがかけられるわ、どうする?」
「大丈夫、オレは開け方を知っている」
サクラは自信たっぷりだ。そういえば、午前もカギを開けた。
今日、来たばかりの留学生が、王族しか開けられないカギの、開け方を知っているって、おかしいよね?
◇
音をたてないように、私たちも図書室に入る。
王子と研修生は、王族用の個室に入っている。
やはり、扉にはカギがかけられていた。
中は、遮光カーテンが閉じられており、見えない。
サクラが、扉のカギに、何かつぶやいている。解除キーは呪文のようだ。
騎士団長に目で合図した。騎士団長は、後ろに控える部下に合図する。
「こら、タロス!」
サクラが扉を開け、大声で威嚇した。
騎士団長が突撃!
中で二人は腰を抜かしていた……あっけない幕切れだった。
「くそ! もう少しだったのに」
騎士団に両腕をつかまれ、研修生が悪態をつく。
王子は、まだ立てないようで、床に腰を下ろしたままだ。甘い雰囲気の天国から、サクラの一言で、地獄へ落とされたショックで、腰が抜けたのだ。
「だましやすいカモだったのに、詐欺だと見破ったお前は、何者だ」
研修生は、私に向かって憎しみの目を向けてくる。
「フランソワーズ、第一王子の婚約者候補よ」
なんだか、午前にも同じセリフを言った気がする。
「婚約者? この色ボケ王子の婚約者は私だけではないのか」
「貴女は、五番目よ」
私、筆頭侯爵令嬢、サクラ、隣国の留学生、そして研修生だ。
研修生は、肩を落とした。騎士団は、あわれむように彼女を見た。
「この袋だな」
第一王子のソバに落ちていた革袋を、サクラが拾い上げた。
見た感じではズシっと重そうであるが、彼女は軽々と持ち上げている。
「違法な金銭の授受の証拠だ。オレが、押収品として預かっておこう」
え? 勝手に押収していいのかな……
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