21 隣国の研修生


「お嬢さん、僕と付き合わないか」


 午後の授業前、教室内なのに、第一王子が、また、令嬢を口説いている。

 また、ひと騒ぎ、起きそうだ。


「私ですか?」


 答えた令嬢は、隣国からの研修生だ。学園に通いながら、魔法技術の修得を目指していると聞いている。


 肌は浅黒く、この王国では珍しいタイプだ。この令嬢もメガネをかけている。


「ヒャッハー! メガネの奥の瞳……紫色ではないか」


 第一王子が奇声を上げて喜んだ。



「タロス様、その女は、悪役令嬢です」


 筆頭侯爵令嬢のイライザが、嫉妬で狂いだした。


「わたくしのノートを隠し、ドレスを破り、最後は断罪される、そんな女です」


 何を言っているんだ? イライザには未来が見えるのか。



「ひどいですわ、私は、まだ何もしていません!」


 隣国の研修生は、泣きながら教室を出ていったが、明らかにウソ泣きだった。

 しかも、まだ何も……って、言ったよね。これから意地悪する予定だったのか。


「待ってくれ、隣国の聖女様」


 第一王子が研修生を追いかけ、教室を出ていった。



「また悪い病気が……」


 さすがのイライザでも、王子の女好きには困っているようだ。

 気付くのが遅いって。私は、初等部で気が付いた。


「フランソワーズ、王子を追いなさい」


 え、私が第一王子を追うの? イライザの役目でしょ?


「わたくしはテスト勉強で忙しいのです、ヒマな貴女が追いなさい」


 爵位が上だと思って、この……今の私は男爵だ、逆らえない。

 仕方なく、王子の後を追った。


 ◇


 二人は、意外と近くの廊下にいた。

 王子が壁ドンしている……何やってるんだか。


「紫の瞳の君、僕の婚約者にする」


 あ~、また宣言した。彼女は五番目の婚約者候補になった。


「本当ですか、うれしいです……でも」


「でも、なんだ?」


 よし! これは断られるパターンだ。王子には、フラれるという考えは無い。



「私の国では、婚約の際は、男性から女性に結納金を渡すシキタリがあります」


「婚約を約束する証として、お金を用意していただけませんか」


 え、お金で解決するの?


「もちろん、すぐ用意する。図書室にある王族用の個室で渡そう、いいな」


「ありがとうございます。第一王子様」


 あ、これはキスするパターンだ。マズい!


「教師が来ましたよ!」


 私は大きな声を出した。二人は、ウソを信じ、慌てて教室に戻って行った……やましい事をしている人は、簡単にだまされる。



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