19 国家機密


「タロス様のお部屋に忍んで行くため、約束の物は、用意出来ましたか?」


「もちろんだ」


「ありがとうございます。王族エリアの地図が無いと、私は迷子になって、護衛兵に捕まってしまいますから」


 王宮エリアの地図! 国家機密となっている品物だ。


 王族がどの部屋で休んでいるのか敵に知れたら、命を狙われてしまう。隣国の留学生になんか、絶対に渡せない品だ!



「サクラ、そろそろ、騎士団に合図を……どうしたの、サクラ?」


 なぜか彼女は、何かにポカンとした。


 あの令嬢は、スパイである可能性が高い。王族エリアの地図が隣国に渡る前に捕まえないと……


「フラン、魔道具のスイッチが入っていない……」


「え、スイッチなんて、あったの?」


 猫耳カチューシャには小さなスイッチがあって、それをオンにすることで、はじめて、遠くの話し声が聞こえるようになるらしい。


「でも、遠くの話し声……聞こえるよ」


「おかしいな、故障か? あ、今は、あの令嬢を取り押さえるのが先か……」


 サクラは、手を挙げて、騎士団に突撃を合図した。


 遠くの話し声が聞こえるって……もしかして、前世が猫だったから? 私に、猫の能力が目覚めたの?


 ◇


「これを貴女に贈ろう。今夜、僕の部屋に、忍んできてくれ」


「わかりました。お部屋で待っていて下さい」


 騎士団とともに、王族用のガゼボに突入したら、愛の会話の最中だった。きもい……


 護衛兵と騎士団が少しもめたので、突入のタイミングが遅れたのだ。地図はどこだ?


「その女、スパイ容疑で逮捕する」


 騎士団が隣国の留学生を取り囲む。



「おまえら、僕の婚約者に何をするんだ!」


 第一王子が怒る。


「第一王子、その隣国の留学生に、王族の地図を渡してはなりません!」


 私は彼を説得する。


「その地図は、王国の機密事項ですから」


「それがどうした?」


 え? 彼には、王族としての最低限の心得さえも持っていないのか。



「色ボケ王子を、上手くだませたのに、なぜバレたんだ」


 隣国の留学生が、悔しそうに愚痴を吐いた。


「なぜって……全てお見通し。証拠をつかむため、貴女を泳がしていたのよ、スパイさん」


 口から出まかせである。これは、良いウソだから許されるはず。


「スパイだと見破ったお前は、何者だ」


 令嬢は、私に向かって憎しみの目を向けてくる。


「フランソワーズ、第一王子の婚約者候補よ」


 ウソではない。第一王子から婚約契約書へのサインを拒否されたけど、私は、婚約者候補の一人だ。


「婚約者ですって? この色ボケ王子の婚約者は私だけではないのか」


「貴女は、四番目よ」


 私、筆頭侯爵令嬢、サクラ、そして隣国の留学生だ。


「四番目……四人も婚約者がいるのか?」


 隣国の留学生は、肩を落とした。一緒に、王子の護衛兵たちも、肩を落とした。



 騎士団が、隣国の留学生を連行していった。


「タロス、その地図は預かる」


 サクラが、第一王子から地図が入っている箱を取り上げた。


「サクラちゃ〜ん、それを受け取ってくれるの? 僕はうれしいな」


「なにを言っている?」



「今夜、それを使って、僕の部屋に来てね」


 サクラが第一王子をにらむが、彼は気にかけていない。鋼のメンタルなのか。


 彼女は、中の地図を確認するため、箱を開けた。


「なんじゃこれ?」


 サクラは、箱の中身をつまみ上げた。

 ピンクの薄い生地、向こう側が透けて見える布……


「もちろんネグリジェだよ。それを着けて僕の部屋に来てね」


 スパイの物的証拠のはずが……どこまで色ボケなんだ!



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