18 猫耳カチューシャ


 図書室のバルコニーから、サクラと二人で、中庭の王族専用のガゼボを監視する。

 ここは、ちょうど日陰になっており、風通しも良い。


「ここは良い場所だね」


 図書室には何回も来たが、ここは気が付かなかった。


「だろ」


 サクラが自慢げに微笑んだ。

 今朝来たばかりの留学生なのに、良い場所を見つけるのが早い。


 3階バルコニーからの眺めは良く、中庭が見渡せる。

 学園の中庭も、王宮の中庭の豪華さとは比べられないものの、広くて美しい。



「あそこ、王族専用のガゼボに、第一王子が来た」


 少し遠いが、隣りに令嬢らしき姿、それに迫ろうとしているあの動きは、第一王子で間違いはない。



「そうだな、フランの予想が当たったようだな」


 サクラはその様子にあきれている。



「隣りにいる令嬢は……隣国からの留学生」


 この王国と隣国とは、政治的に良い関係ではない。この学園では、若い力で、隣国を含めた諸外国と良い関係を築こうと、積極的に留学生を受け入れている。


「たしか、隣国の留学生の瞳は、メガネの奥で見えにくいが、紫色だった」


 紫色の瞳は、聖女の証だと言われている。数年前は、緑色の瞳が聖女だと言われていたのに、流行の移り変わりは早いものだ。



「タロスの好きそうな令嬢だな」


「王族を呼び捨てにしては、不敬ですよ」


「あ、すまん」


 サクラは、この王国のマナーについて、知らないことが多くて、ひやひやする。



「第一王子が箱を手にしている。きっと王宮の地図ですね」


 小さな箱だ。赤いリボンで飾ってある。こういう所は、ちゃんと好感度を上げる王子だ。


「デレデレしやがって……」


 サクラは、小言のようにつぶやいた。



「第一王子の護衛は、少し離れた位置で控えているが、あれで護衛が務まるのか?」


 サクラが疑問を口にした。たしかに、離れた位置だ。たぶん、第一王子がワガママを言ったのだろう。


「最後の盾は、第一王子の婚約者が務めるのですが、隣国の留学生では無理でしょうね」


「だな……ハァ~」


 ため息をつき、サクラは、また呆れた。



「サクラも、侍女を離して控えさせているじゃない」


 サクラの侍女は、王弟殿下の侍女が兼務している。


「オレが指示している訳ではない。彼女たちが判断して距離を考えているんだ」


 ふ〜ん、そういう事にしておきましょう。


「それよりも、独身の男女が二人きりで、人目を忍んでデートしていることは、慎むべきだろ」


 確かに問題行為である。



「サクラ、騎士団の配置は、大丈夫?」


「あぁ、隣国の留学生を囲む形で隊形を組み、オレの合図を待っている」


 護衛兵では頼りにならないので、なぜか学園に来ていた騎士団に相談したのだ。



「ここは、なんとか、二人の会話を聞きたいな」


 サクラが言う。この距離だと、人の耳では会話を聞き取りにくい。


「猫耳カチューシャ」


 可愛い猫耳がついたカチューシャを、どこからか取り出した。


「え?」


「魔道具だ、頭に装着してみろ」


 二人で、猫耳カチューシャを、頭にのせた。


「サクラ、可愛い……」


 彼女の顔が赤くなった。猫耳をつけたサクラは、予想以上に抱きしめたくなるほど可愛かった。


「そんなことより、第一王子の声が聞こえるだろ?」


 言われて、第一王子の声に集中してみる。



「隣国の美しい令嬢よ、貴女を僕の婚約者にしよう」


 第一王子の声が聞こえる! 四番目の婚約者候補が誕生した。


「うれしいです、タロス様」


 隣国の留学生の声も聞こえる。これは素晴らしい魔道具だ。



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