15 王族専用個室
「ここが図書室」
授業の合間に、学園の3階にある図書室へサクラを案内した。
サクラは、留学生であり、学園内が分からないからと、私は彼女を案内するよう教師から命じられた。これは、王弟殿下の指示でもあった。
「この図書室は、王宮の次に書物が置いてあるの」
王宮のような禁書まである図書館にはかなわないが、その次に書物数を誇る学園自慢の図書室である。
サクラには、侍女が付かず離れず従っているが、今は図書室の外で待機している。なぜか、サクラの侍女は、王弟殿下の侍女が兼務していた。
「そして、こっちの個室は、王族以外の生徒は立ち入れないから、気をつけてね」
彼女への指導も私の役目だ……あ、サクラが、王族用の個室の中へ足を踏み入れた。
「罰せられるわよ!」
サクラの手をつかみ……彼女の手は温かく、私を包み込んでくれるような懐かしい感じがした。
彼女と手をつなぎ、私も王族用の個室内に入ってしまった。扉にカギは、かかっていなかった。個室といっても、王族の執務室くらいの広さがある。
「大丈夫よ、フランは第一王子の婚約者候補でしょ」
そのとおりであるが、私は、あんな第一王子とは結ばれたくないと思っているし、国王から延期を宣言されている。
「それを言ったら、サクラも、第一王子から婚約を宣言されたでしょ」
「げ、そうだった」
二人で笑った。
窓からもれてくるお昼前の柔らかな日差しも、笑っているような気がする。
「ここで、第一王子と、将来についてお話をしたことがあるの」
誰にも話したことは無かったけど、サクラになら聞いてもらいたい。
「昨日までの私は、侯爵令嬢であり、周りからチヤホヤされていた」
それは私が努力して得たものではない。職位は父親のものだ。
「第一王子は、私のことを大事にすると言ってくれた。そして、国民も大事にすると言っていた」
「まさか、彼の言う国民が、美しい令嬢、全てだったなんて……」
第一王子の女好きは、今に始まったことではない。幼い頃から、私のことよりも、美しい令嬢やメイドばかり見ていた。
「第一王子と私の婚約は、侯爵の娘として生まれてきたのだから従うのが義務だと、何の疑問も持たなかった……」
そうだ、疑問はなかった。第一王子が、女性を追いかけるのは、普通の男性なら当たり前だと思っていた。
「私は、何か勘違いをしていた」
大人たちが決めた道を、ただ歩いて来ただけだった。
「でも、最近になって、王弟殿下ともお話をするようになってから、私の男性に対する常識は間違っていたことに気が付いたの」
王弟殿下は、紳士的であったのだ。
「女性が、一緒に歩みたいと思える男性も、世の中にはいたんだ」
父親が男性のお手本になるのが一般的らしいが、父のエメラルティー侯爵はガンコで、自由奔放で、屋敷を空けることが多く、娘から見ても普通ではなかった。
私も、弟も、母親の記憶はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます