16 ゲンマン


「サクラは、私のお友達になってくれる?」


 図書室の王族専用個室で、今は二人っきりだ。思い切って、心の奥にたまっていた不安を口に出してみた。



「もう友達だろ?」


「うん、会ったばかりだけど、私……心を許せる親友が欲しいの」


「オレには、話せない秘密があるが、それでも良いのか?」


 サクラは不思議な令嬢である。家名を秘密にしているけど、王弟殿下の後ろ盾がある。さらにハリセンという魔道具まで隠し持っていた。



「かまわないわ、いつか私に話せる時がくると思う。その時が来たら、私も、秘密の初恋の話を教えてあげるね」


 あれ? ここは笑う所なのに、サクラは真剣な顔つきだ。



 サクラが、私の前で片膝をついた。


「オレは、フランに忠誠と永遠の愛を誓う」


「え? それは、この国ではプロポーズを意味します。貴女の国とは意味が違うかも、直ぐに立って」


 彼女は不満な顔で立ち上がった。親友の約束をするんだよね……どういう意味だったのだろう。



「では、親友の約束をします。 小指を出して、お互いに引っ掛けるポーズよ」


 私とサクラは、親友であることを誓い、古のゲンマンのポーズをした。


「ゲンマンか、懐かしいな」


 ゲンマン知っているんだ。友好国にも伝わっていたのかな。


「これで私たちは親友よ」


 うれしさのあまり、彼女を抱きしめた。


 彼女の顔が赤くなった。女同士だから、恥ずかしがることは無いのに。



「暑いな、少し涼もう」


 個室から図書室に戻り、サクラがバルコニーへの扉を開けると、気持ち良い風が入ってきた。


「そうだ、ランチは、このバルコニーで食べよう、オレがおごるから、いいだろ?」


 そういえば、男爵に落ちた私は、ランチを買うコインを持っていなかった。


 いつもは、私のメイドがランチを用意してくれていたから……



「お願いします」


 私は頭を下げた。これまでは、学園で頭を下げることなど無かったのに。


 お金が無いって、こんなにも辛い事なんだ……はやく新しい生活に慣れなくては。



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