14 魔動具ハリセン


「学園の案内など、留学生への説明、指導も行うこと」


 教師から命じられた。なんでだろ。そんなの爵位の高い生徒の仕事だろうに。


 例えば、筆頭侯爵の令嬢とか……無理だな。留学生が問題児に育ってしまう。



「これは、王弟殿下からの指示である」


 教師の言葉に、教室中がざわめいた。王弟殿下の関係者なら、もしかしたら、留学生は友好国の王族かもしれないからだ。


「そういう事で、よろしく、フランソワーズ」


 留学生は、うれしそうに私の隣りに座った。


 他の生徒たちは、後ろを振り向かないと私たちを見ることができないので、好奇の目にさらされることはない。最後尾の席に移されて良かった。


 ◇


「オレのことは、サクラと呼び捨てにして」


 授業の合間に、留学生が話しかけてきた。


「でも、私の方が爵位が下でしょうから」


「かまわない、フランソワーズとは友達から始めたい」


 友達からお願いしますってこと? それって告白じゃん。よく分からない令嬢だ。


「わかった、私のことはフランと愛称で呼んで。よろしく、サクラ」


 なんだろう、この感じ。サクラとは、幼い頃から一緒だったような、懐かしいというか、温かい感じがする。


 私は人見知りなのに、直ぐに心を許した……



「サクラちゃ~ん」


 この声は、第一王子!


 昨日の召喚失敗の責で、自室で謹慎を言い渡されたはずなのに、なんで学園に出てきているの?


「僕は、この王国の第一王子、タロスだよ」


 第一王子の言葉に、サクラがにらんだ。


「美人だね、黒い瞳も魅力的だ、僕の婚約者にするよ」


 婚約者? 正確には婚約者候補であるが、教室中が、またかとあきれている。



「わたくしは、ゆるしませんから」


 筆頭侯爵の令嬢、イライザまで近寄ってきた。


「僕の婚約者が、三人そろった、ハーレムの第一歩だ」


 私、イライザ嬢、サクラの三人らしい。私が入っていることに、ため息が出る。

 異世界の聖女の事は秘密でカウントしないので、三人目となる。



「お断りします」


 サクラが、きっぱりと断った。


 第一王子の申し入れを拒否するなんて、この王国の令嬢では難しいことだ。やはりサクラは、友好国の王族なのだろうか。


「サクラちゃんは、僕の三番目の婚約者だ」


 しつこい男だ。これを他の場所で活かせば……


「スパン!」


 聞いたことのない音が響き、第一王子が吹っ飛んだ。


 サクラの手には、扇子を折りたたんだような、大きな紙をジャバラにしたような物が……なんだこれは?


「これは、ハリセンだ」


 ハリセン? いや……今、第一王子を張り倒したよね? 不敬罪だよね?


 あれ? ハリセンという物に、王弟殿下の紋章が浮かび上がっている。


「大丈夫だ、天下御免の魔道具は、誰も止められない」


 天下御免とは、証拠など無くても、相手の身分に関係なく、罪深い人間を張り倒しても良いと、王国に認められているということだ。



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