第二章 月曜
13 謎の留学生
「チュンチュン」
小鳥のさえずりが聞こえる。
粗末な遮光カーテンの隙間から朝日が漏れている。窓の外は、もう陽が昇っているようだ。
ベッドが少し硬い。
薄く目を開けると、天蓋ではなく、見たことのない天井だ。
「そっか、学園の一般寮か……」
ここは、王立学園の一般寮だった。
◇
昨日は、日曜日なのに王宮に行き……
婚約契約書へのサインを第一王子から拒否されるし
第一王子は筆頭侯爵の令嬢と婚約すると宣言するし
私は、第一王子によって、泉に落され、気を失った
夢に出てきたのは前世、私は猫だった
父が爵位を返上し平民に落ちて
でも、一代男爵を授与されて
私は、ここ学園の一般寮に引っ越すことになった
問題はここからだ。
異世界からの聖女召喚を見学していたら
第一王子が暴走して失敗、王位弟殿下が倒れた……
◇
「王弟殿下の侍女たち、大人の淑女って感じで、うらやましかったな……」
特に、マーキュリーさんは、侍女の皆さんや王弟殿下までも牛耳っていて、頭一つ抜け出ていた。
そういえば、王弟殿下の侍女は、全部で六名いた。六ボウ星の頂点と同じ数なのは、偶然だろうか。
「女王コノハ様も、凛として素敵な女性だった。憧れちゃうなぁ」
私なんか、未熟で、元女王コノハ様の足元にも及ばない。分かってはいるが、憧れるくらいは許されるよね。
「おかしいな、メイドさんが起こしにこない、月曜の朝なのに、どうしたんだろ?」
朝は、メイドさんから起こされ、朝食を運んでもらって、制服に着替えさせてもらい、馬車で学園に向かうのが侯爵令嬢の日常だ。
「あ!」
しまった、メイドさんはいないんだ。
優雅な侯爵令嬢の生活は終わった。領地を持たない一代男爵に、メイドを雇う余裕などない。
◇
「ウググ」
これは、人生初の遅刻になるかも。
サンドウィッチを口に押し込み、学園の朝を、教室に向かって走る。
廊下を走るなんて、大人の淑女とは言えないが、今はピンチなのだ。
「キャ!」
廊下を曲がったところで、令嬢とぶつかった。
「大丈夫か? いや、大丈夫でゴザイマスか?」
相手の令嬢が、謝ってきた。なんで、言い直した?
幸い、二人とも転倒することもなく、最悪の事態からは逃れた。
すぐれた反射神経の賜物である。いや、ぶつかったけど。
「私は大丈夫です、廊下を走ってごめんなさい、貴女は大丈夫ですか?」
相手の令嬢は、黒髪に黒い瞳、大きな胸、魅力的な女性だ。学園の制服を着ているけど、この学園で見たことはない。
爵位を示すレディース・ボウタイは、深みのある緑色、この王国の色ではない、いわゆる友好国グリーン……魅力的な令嬢だが、誰だ?
「大丈夫です、オレも、キョロキョロして、前を見ていなかった、すまん」
オレ? 自分をオレと呼ぶ令嬢?
「あ、オレは友好国からの留学生なんだ……でゴザイマス」
令嬢は、猫を被っているのか、女性らしく振舞おうとしているのか、なんだか怪しい言葉遣いだ。
◇
「今日から、この留学生がクラスに加わる」
教師が留学生の令嬢を紹介した。
先ほど、廊下でぶつかった黒髪の令嬢だ。
この留学生のおかげで、教師は教室に来るのが遅れた。そのため、私は遅刻しないですんだ。
これで無遅刻の記録が更新された。ちなみに、無欠席でもある。侯爵令嬢としての公務のため、学園に出れないことはあったが、それは出席扱いになっている。
「友好国から来たサクラです。事情があって家名は名乗れませんが、仲良くしてください」
令嬢は、ぎこちなくニコッと微笑んだ。女性たちは、ぎこちなさに気が付いたが、男性たちは、気付かずにデレデレしている。
「席は、フランソワーズさんの隣りにします」
教師が指示した。
私の席は、今日から最後尾の窓側に移されていた。
侯爵令嬢から男爵に落ちた私の扱いに、他の生徒が困るからと、配慮したものらしい。
昨日から、私のレディース・ボウタイは黒色に変わっている。ヘアクリップは、赤から銀に変えた。黒は持っていないから。
そんな私の席の隣に、留学生を座らせるなんて、なんだかおかしい。
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