And-6

 当初こそ、胡散臭いだとか、綺麗ごとだと蔑まされてきたマリアンナの声明だが、時間がたつにつれ、支持者が増えて来た。

 彼女の理念に心惹かれる者達も多かった。


 そして、当事者であるはずのジョン・ディビット大統領はSNSでマリアンナの非難、国民へのメッセージは安全圏からのビデオメッセージ、同盟国や周辺国に対しての説明不足で無礼な態度……進行されている側とはいえ、あまりにも酷すぎた。


「アシアナ王国と、並びにかの国に賛同する各国はストーンヘンジの独立を後押しする構えです」


「国連は特別総会を実施、各国間で高まる緊張を抑えようという機運が高まっています」


「前線の兵達にも戸惑いが見られます。おびただしい憎悪がうずまく二国間ですが、もしかすると、かつてのクリスマス休戦のような奇跡がおきるかもしれません」


 大型モニターでTV中継を見ていたターンストンは、ワイングラスを投げ捨て激高した。


「なんだこれは!?

 だから、ウルフは確実に始末しろと言った筈だ!」


「……申し訳ありません、主任。

 ですが、奴が生きていると決まったわけでは」


「衛星画像にグリペンが修復されている様子が写っている。


 生き場を失った貴様らに、最新鋭機を渡した結果がこれか!? 」

 

 ターンストンが怒鳴っているのは、彼の私兵である飛行隊”グレイウィングス”だ。

 彼は焦っていた。

 今は混乱により、自分達の存在が隠れているが、事実が明らかになれば、全ての勢力が敵になる。


「……しかけるなら、今しかない。 

 次のフェイズの戦争で使う予定だったが、仕方ない。

 オーバースペックだが、弾道ミサイルを使う」


「主任、ご命令を! 今度こそ、成し遂げます!」


「弾道ミサイル発射を遂行せよ!

 命に代えてもだ、急げ!」


「はっ」


 そして、グレイウィングスの各員が出ていく中、ターンストンは自身の秘書に耳打ちした。


「どれだけ準備しようと、やはり、最後に信用できるのは自分の力だけだな。

 私の機体を用意させろ」

  


 ◇



 今宵、ストーンヘンジの酒場は、パイロット達の貸し切りとなった。

 ウルフ、キーテ、ジョー。そして、大熊とフォックス。

 大熊は資材捨て場においてあったホワイトボードを持ってきて、皆の前に見せた。


「よし、皆集まったな。


 お前も来てくれて、感謝するぞ」


「うるせぇ、作戦なんて必要ねぇ! 全員ぶっ殺せばいい!」


 ジョーはやたらと意気込んでいた。

 この中では一番戦う意義がなさそうなのに、なぜ一番やる気があるのだろうと内心皆が思いつつ、ブリーフィングが始まった。


「ターンストンらは、前の戦争末期に開発していたベルヌーイのICBMを使用するつもりのようだ。

 もちろん、こんな近距離で使うような兵器ではないが、使えないこともない。


 連中はそれを8発用意している」


「恐らく、半分は此処ストーンヘンジに使うつもりです。

 残りの半分は……」


「アシアナ王国に使うつもりか」


大熊の解説を、フォックスが引き継ぎ、ウルフが締めた。


「ターンストンからすれば、平和を謳うマリアンナ殿下のお姿は、自分の野望にとって最も邪魔な存在だろう。

 アシアナ王国ぐらいの距離であれば、ICBMの有効射程だ。

 もし使われれば、世界全体でパニック状態になるだろう」


キーテが冷静に分析した。

彼女の分析は当たっていた。

『平和』こそが帰るべき時代と考えているターンストンにとって、マリアンナは最大の敵だった。

 

「話を戻すぞ。

 連中はICBMを使う気はなかったようで、準備に時間がかかっている。

 そこを叩く他ない。

 

 コルサック軍は混乱状態にあるが、首都は防空網が機能している。

 ターンストンの私兵たちも出て来るだろう。

 正直、混乱を突いたとしても、3機の戦闘機と1機の空中管制機で8基全てを破壊するのは不可能に近い」


「関係ねぇ! 全員ぶっ殺せばいい!」


大熊の重苦しい口調に対し、ジョーはあっけらかんと言い放つ。

多分、彼は特に何も考えずに発言した。


「……ふん、気に喰わないが、その通りかもな。

 連中の言いなりになって戦争するのだけは御免だ。

 やるだけやってみよう。


 出撃は、明日の朝8時だ。

 村の人がご馳走してくれるらしい、食って、寝ろ」



夜。

ブリーフィングが終わり、ウルフが一人で雪が降る外を眺めていると、肩をちょんちょんと叩かれた。

フォックスだった。


「あなたに電話が来ています」


「誰から?」


「出ればわかります。

 でも、静かについてきて。


 皆にバレると騒ぎになるから」


フォックスに案内された先は公衆電話だった。

訝し気にウルフが受話器を取ると、フォックスは部屋から出て行った。


「……もしもし?」


「もしもし」


「マリアンナ?」











 

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