And-5
「つまんね」
ジョーはベッドの上で黄昏ていた。
かつて、ウルフが拠点としていたATCの実験飛行場に彼はいた。
実は彼はターンストンにヘッドハンティングされていた。
軍人の黄金の時代という誘い文句を受け、彼は最初は乗り気だった。
だが、蓋を開けてみたら、逃げ惑う敵に爆弾を落とす簡単な仕事ばかりだった。
出撃の際、対空ミサイルフル装備で出撃するなど、ジョーは空爆を行う気はさらさらなかった。
這いずり回る敵を撃って、何が楽しいのか?
ジョーの場合は正義感から任務を拒否するというより、ただ単純に高高度から爆弾を落とすつまらない任務よりも、血湧き肉躍る空中戦を望んでいた。
ターンストンの私兵”グレイウィング隊”も張り合いのない連中だ。
空爆任務中、彼らに爆装をしていないことを咎められたジョーは、あの時と同じように、彼らをアクロバット飛行で挑発した。
だが、彼らはジョーにまったく取り合う気はなく、今では完全に戦力として見られておらず、放置されている。
与えられた任務にとにかく生真面目な連中だ。気色悪い程。
ジョーはある連中を思い出した。
何をするにも話し合い、とにかく仲良しな連中。気持ち悪い程。
「はっ、くだらね」
やることもないので、ベッドでふて寝をしようとした時、彼のスマートフォンが通知を知らせた。
ATCのWiFiは電子妨害の範囲外だった。
もうしばらく、更新していないSNSにメッセージが届いていた。
送り主の名は狼、アイコンはあほ面の狼だった。
”手伝ってほしい”
”ATCと戦う戦力が必要だ”
”場所はストーンヘンジの廃飛行場”
「く、ははははははは! 間抜けな野郎だ!」
まさか、ATCと組んでいるとも知らずに連絡してくるとは!
グレイウィング隊はターンストンに、ウルフは始末したと報告したらしい。
今、奴が生きてるというこの証拠をターンストンに見せつければ、あの気に食わない連中は失脚し、自分は報酬をせびることが出来る。
そうと決まれば、ターンストンに連絡を……。
”頼む、軍すら手綱を握れなかった狂犬の力が必要だ”
最後に一つ、メッセージの通知が来た。
携帯番号を打っていた指が止まる。
そして、ふと部屋の外で警備している兵士のひそひそ声が聞こえてきた。
「この問題児どうするんだ?」
「さぁな。腕は立つって触れ込みだったが……。
だが、戦況を変えるエースパイロットなんていうのは存在しない。
結局は数だ。その数にも成れないような、親すら手綱を握れなかった番犬は――」
ジョーは部屋の扉を蹴り破り、扉の前にいた警備兵もろとも吹き飛ばした。
「軍すら手綱を握れなかった狂犬だ。二度と間違えるな」
その後、ATCの飛行場から一機のフルクラムが無許可で離陸し、混乱の最中、飛び去って行った。
◇
アシアナ王国にて、先日の発言を受け、マリアンヌは記者たちの質問攻めにあっていた。
「あなたの言葉は戦争に混乱を与えただけなのでは?
何かの思惑があるのでは?」
「いいえ、平和を願った言葉です」
「だとしてもです。
第三国が踏み切った内容を発言するのは、今は控えるべきでは?」
「こういう状況だからこそ、罪を一人の個人に押し付けることを許してはいけません」
「あなたの言うことは綺麗ごとだ!
まるで世間知らずの姫さまのようだ!」
一人のジャーナリストが厳しい口調で言った。
だが、マリアンナは頭を下げなかった。
「私は皇女です。
たとえ、世界が戦果に沈もうが、綺麗ごとを言い続けます。
誰かに希望を見せることが、皇女としての責務です!」
◇
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