And-4

『コルサックに続き、3か国でクーデター軍と政府正規軍が衝突』

『オセアニアにおいて、軍事緊張が高まる』

『5か国、NATOからの脱退を検討』


「……」


 コルサックとベルヌーイ、そしてATCがそれぞれに電子戦を仕掛け、ネット網は麻痺寸前だったが、フォックスがなんとか小さな突破口を見つけ、インターネットに接続できた。

 だが、そこにいいニュースはほとんどなかった。

 あの日以来、コルサックから世界へと動揺が広がり、武力衝突の可能性が高まっている。

 それと比例し、ATCや民間軍事企業G/Sの株価がうなぎ上りに上昇している。


「ターンストンめ、何が軍人の黄金の時代だ。

 結局、自分が儲けたいだけだろう」


 大熊が株価を見ながら、忌々し気につぶやく。


「ですが、このままいくと、本当に彼の言う通り、世界が変わるかもしれません」


 フォックスが言うように、注目されてなかった軍事株がこれで儲けられるようになれば、同じことを企む輩が増え、戦争ビジネスが蔓延するだろう。

 だが、結局それで行き着くのは、戦争で得た富のある者が兵たちにさらなる戦争を命ずる世界……今の世界とそう変わりある世界だろうか?


「とはいえ、ターンストンからしたら、ストーンヘンジは邪魔な存在だろうな」


「今はコルサックとの戦争で手が出ないが、どこかのタイミングで仕掛けてくるはず。

 相手に時間を与えるべきじゃない。

 ただ、グリペンを修理できたとしても……1機じゃ無理だ」


 ウルフらネメシス隊は、戦争中は電子妨害との組み合わせで、一対多数の任務を行うこともあった。

 しかし、それは戦略上の作戦であり、戦争の行く末を左右するのは一人では無理だ。


僚機Wingmanが必要だ」


 助けになってくれそうな人物が三人の脳裏に浮かんだ。


「あの馬鹿ジョーは……あいつは今どこで何をしている?

 フォックス、奴にナンパされかけていたと思うが、メアドか何か知らないか?」


「い、いえ……何か、メモのようなものを渡されましたけど、気持ち悪くて捨てました」


「はぁ……まぁいいさ。

 呼んで、簡単に来るやつだとは思えんしな。

 もう一人は、飛べるのか?」


「ここで話していても仕方ない。

 直接、話してくる」


 ◇


 もう一人、即ちキーテを探している最中、ウルフは通りに小さなモニュメントを見つけた。

 ここに住まう人々が、この地で果てた両国の兵士を追悼する目的で建てたようだ。

 石碑のふもとには、死者へ備えるように、軍のワッペンが雪に埋もれていた。

 黄色い背景に、勇ましい鷹が翼を広げていた。


 ウルフはそれを拾い、再び、彼女の姿を探した。


 それからしばらくして、彼女の姿を見つけた。

 彼女はかつてストーンヘンジで採れた石炭や木材を運ぶために使用していた廃飛行場跡にいた。

 雪の積もった格納庫にはフランカーと、その横で地べたに座り込んでいるキーテの姿があった。


「誰から聞いたのか。

 かつての整備士たちが、私がこの地にいると聞いて持ってきたんだ。

 正直……有難迷惑だ」


 ウルフが彼女の傍らにいくと、彼女は愛機を見上げながら、自嘲気味につぶやいた。


「キーテ、手を貸して欲し」


「すまない。 

 君の機体は壊れてしまっただろう、修理していると聞いているが、代わりにこれを使ってくれても構わない。

 もう、空は飛びたくない」


 キーテは顔を埋めた。


「君と違い、戦後も部下たちに私は持て囃されて恵まれていた。

 だが、この様だ。

 君は耐えがたきを耐えて、返り咲いたというのに。


 一体、何が君を支えてきた? 」


 ウルフは彼女に近づくと、彼女のジャケットのがら空きになっていた袖部マジックテープの部分に先ほど拾ったワッペンを張り付けた。


「えっ?」


「俺を支えてきたのは誇りだ。

 あの時、空を飛んできた誇り、もう一度空へと戻りたいという希望が俺をここまで連れてきた。

 俺も君そう変わらない、ほんの少し道を逸れただけだ。


 一緒に戦えなんて言わない。 だが、誇りは捨てないでくれ。

 君たちと戦った俺の誇りのためにも、散っていた仲間のためにも」


 ウルフが去っていったあと、キーテは呆然と自分のジャケットにつけられたワッペンを見る。

 彼女が誇りをもって受け取り、つい先日、すべてに絶望し、捨てたはずの黄色連隊のワッペンだった。


 これを他人につけられるのは、二度目だった。

 一度目は黄色連隊に選抜された時、かつての隊長、アドラーの手によって。

 去っていくウルフの背中に、彼の姿を重なり、昔を懐かしむようにキーテは眼を細めて微笑んだ。

 キーテは立ち上がると、愛機フランカーEを見つめた。

 さっきと打って変わり、その目は猛禽類のような鋭い目をしていた。


「もう一度、力を貸してくれ」


 ◇


 丁度、そのころ、フォックスの髪がふわりと揺れ、目が見開いた。

 突然、ひらめきが舞い降りたのだ。

 PCで彼女が開いたのは、軍のデータベースとか極秘無線チャンネルとかではなく、がこぞってやるSNSだった。

 彼女はその検索窓に、『戦闘機パイロット』『狂犬』『賞金稼ぎ』『最強』といったキーワードを入力し、検索した。


 そして、その検索トップに金髪を刈り上げた男が、筋肉を自慢しているプロフィール画像が現れた。

 そいつのアカウント名は”マッドドック・ジョー”




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